辨 |
トチノキ属 Aesculus(七葉樹 qīyèshù 屬)には、ユーラシア・北アメリカに12-13種がある。
A. assamica(長柄七葉樹・滇緬七葉樹) 廣西・雲南・インドシナ・ヒマラヤ産 『中国本草図録』Ⅴ/2197
ベニバナトチノキ A. × carnea(紅花七葉樹)
シナトチノキ A. chinensis(A.chekiangensis, A.wilsonii;
七葉樹・娑羅子・蘇羅子・開心果・桫欏樹・天師栗・猴板栗)
河南・陝甘・江蘇・浙江・江西・兩湖・廣東・四川・貴州・雲南産
『中薬志Ⅱ』pp.383-388 『中国本草図録』Ⅱ/0685,Ⅶ/3213 『(修訂) 中葯志』III/555-562
セイヨウトチノキ(マロニエ) A. hippocastanum(歐洲七葉樹・猴板栗;
E.Horse-chestnut;F.Marronnier)
インドトチノキ A. indica 東西ヒマラヤ産
A. parviflora(小花七葉樹) USA南東部産
アカバナアメリカトチノキ(アカバナトチノキ) A. pavia(北美紅花七葉樹;E.Buckeye)
トチノキ A. turbinata(日本七葉樹)
ウラゲトチノキ f. pubescens
A. wangii(雲南七葉樹) 雲南産 『雲南の植物Ⅲ』200・『中国本草図録』Ⅵ/200
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ムクロジ科 SAPINDACEAE(無患子 wúhuànzĭ 科)については、ムクロジ科を見よ。 |
訓 |
「和名とちノ意義不明」(『牧野日本植物図鑑』)。
ウマグリは、英名の和訳。 |
『本草和名』橡実に、「和名都留波美乃美」と。
『倭名類聚抄』杼に、「和名止知」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』25 天師栗に、「トチノミ 弘法大師クハズノクリ阿州 木」と。 |
漢名 橡(ショウ,xiàng)には、二つの意味があり、一はトチノキ、一はクヌギ。杼(ショ,shù)も、一はクヌギ、一はトチノキ。
なお、栃の字は、トチノキを表す字として日本で作られた国字、従って漢音は無い。 |
説 |
北海道(札幌小樽以南)・本州・四国・九州に分布。中国では上海・杭州・青島などの城市で栽培。
葉は、大小不ぞろいの 5-7片の小葉からなる、大型の掌状複葉。 |
誌 |
中国では、A.chinensis(七葉樹)や A.wilsonii(天師栗)の果実を、天師栗・娑羅子(シャラシ,suoluozi)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.383-388 |
実はサポニン・アロインなどを含み、苦い。これを十分にアク抜きして澱粉を取り、栃餅・栃粥などを作る。日本では、縄文時代から食用にされてきた。
トチの澱粉から麺を打つときに用いる丸棒を、栃麺棒(とちめんぼう)という。
一説に、栃の粉は粘性に乏しいので、麺に打つときに手早く扱う必要がある。ここから、忙しいこと・あわててうろたえることや、そのような人を「とちめんぼう」と言う。 |
ここからさらに派生して、あわててへまをすることを「とちる」と言う。 |
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秋深橡子熟 秋深くして橡子(しょうし)熟し、
散落榛蕪崗 散落す、榛蕪(しんぶ)の崗(おか)。
傴傴黄髮媼 傴傴(くく)たり、黄髪の媼(おうな)、
拾之踐晨霜 之れを拾って 晨霜(しんそう)を践(ふ)む。
移時始盈掬 時を移して 始めて掬(きく)に盈(み)ち、
盡日方滿筐 日を尽して 方(まさ)に筐(かご)に満つ。
幾曝復幾蒸 幾(いく)たびか曝(さら)し 復(ま)た幾たびか蒸し、
用作三冬糧 用(もっ)て三冬の糧(かて)と作(な)す。
皮日休(833-883?)「橡媼嘆」より
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西行(1118-1190)『山家集』に、
やまふかみ いは(岩)にしだ(垂)るゝ 水ためん かつがつお(落)つる とちひろ(拾)ふほど
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木曾のとち浮世の人のみやげ哉 (芭蕉,1644-1694)
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橡の太樹(ふとき)をいま吹きとほる五月(さつき)かぜ
嫩葉(わかば)たふとく諸(もろ)む向きにけり
かんかんと橡の太樹の立てらくを背向(そがひ)にしつつわれぞ歩める
(1914,斉藤茂吉『あらたま』)
わが心たひらになりて快し落葉をしたる橡の樹(き)みれば
(1941,齋藤茂吉『霜』)
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栃木県の県花。 |
パリの並木として有名なマロニエ marronnier は、ヨーロッパ産の同属異種セイヨウトチノキ A.hippocastanum。 |