辨 |
カキノキ科 Ebenaceae(柿 shì 科)には、4属約580-800種がある。
カキノキ属 Diospyros(柿屬)
Euclea(海柿屬) 熱帯アフリカ・アラビア半島に12-16種
E. natalensis(那塔柿) ソマリア~南アフリカに産
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カキノキ属 Diospyros(柿 shì 屬)には、世界に約500-730種がある。
ケガキ D. blancoi 果実を食用。フィリピン原産、臺灣でも栽培
タマフリノキ(シセントキワガキ) D. cathayensis (烏柿・丁香柿子・山柿子・
・黑塔子・金彈子・野油柿子)『中国本草図録』Ⅹ/4787
D. corallina (五蔕柿) 海南島産
ケガキ D. discolor (臺灣柿)
カイナンヤマガキ D. diversilimba (光葉柿) 廣東・海南島産
ブラックサポテ D. ebenaster メキシコ・西インド産
コクタン(インドコクタン・セイロンコクタン) D. ebenum(E.Ebony)
ヤエヤマコクタン(リュウキュウコクタン) D. egbert-walkeri
ヤワラケガキ D. eriantha(烏材) 絶滅危惧IB類(EN,環境省RedList2020)
琉球・臺灣・兩廣・ベトナム・フィリピン・マレー半島・インドネシア産
D. howii (瓊南柿・鏡面柿) 廣東・海南島産
リュウキュウマメガキ D. japonica(f.pseudolotus, D.kuroiwae,
D.glaucifolia;山柿・浙江柿・粉葉柿)
D. kaki
カキノキ var. kaki (柿) 長江流域原産 『雲南の植物Ⅱ』201
ヤマガキ var. sylverstris (野柿・油柿・山柿)
福建・江西・兩廣・雲南産 『中国本草図録』Ⅴ/2244
コウトウガキ D. kotoensis
マメガキ(シナノガキ・ブドウガキ) D. lotus (君遷子・黑棗・柔棗・紅藍棗)
リュウキュウガキ(クサノガキ) D. maritima(D.liukiuensis;海邊柿)
琉球・臺灣・東南アジア・オーストラリア・ポリネシアに分布。
果実に毒があり、魚毒・矢毒に用いる。
D. metcalfii (南海柿)
D. mollifolia (小葉柿・紫藿香・澀藿香)
トキワガキ(トキワマメガキ) D. morrisiana (D.nipponica;
羅浮柿・山柿・山埤柿・野柿花) 『中国本草図録』Ⅹ/4788
本州(伊豆半島以西)・四国・九州・琉球・臺灣・華東・湖南・兩廣・四川・貴州・雲南産
D. nigricortex(黑皮柿) 雲南産 『雲南の植物Ⅲ』214
オルドガキ D. oldhamii(D.sasakii;D.hayatae;D.odashimae;紅柿)
琉球・臺灣産
アブラガキ D. oleifera(油柿) 安徽・浙江・江西・福建・湖南・兩廣産
ツクバネガキ(ロウヤガキ) D. rhombifolia (老鴉柿・山柿子・野山柿・野柿子)
安徽・江蘇・浙江・福建産
アカケガキ D. strigosa(毛柿) 廣東産
コケモモガキ D. vaccinoides(小果柿) 廣東産
アメリカガキ D. virginiana 米国東部産
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訓 |
「杮(こけら)落とし」と使うときの杮(ハイ,fèi,こけら;「木の削り屑」の意)は、柿(シ,shì,かき)とは別字。
この二つの字は、旁(つくり)が違う。「こけら」の旁は、帀の縦棒が上に突き抜けた形、三画。「かき」の旁は帀の上に点、四画。 |
『本草和名』柿に、「和名加岐」と。
『倭名類聚抄』に、柹は「和名賀岐」、鹿心柹は「和名夜末賀岐」、黒柹は「久呂加木」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』柹に、「カキ和名鈔」と。 |
学名の種小名は和名から。 |
説 |
東アジア温帯の固有種。中国ではB.C.2c.に植栽の記録がある。
日本には奈良時代に中国から渡来したとする説が有力。 |
日本では本州以南で栽培。甘柿は耐寒性が弱く、優良品は神奈川県以西に産。 |
果実の甘さ渋さなどにより、次のものなど、多くの種がある。
甘柿
御所(五所・木練,コネリ) 最優良品、大和原産、近畿・岐阜・山梨に産
富有(水御所) 明治年間岐阜で御所柿を改良、岡山・愛媛に産
次郎柿 静岡原産
禅寺丸(キザ柿) 神奈川原産
甘百目 関西産
久保 京都産
水島 北陸産
渋柿
会津身不知(ミシラズ) 会津原産で東北地方に多産、樽柿用
平核無(ヒラタネナシ) 山形原産、樽柿用
富士(甲州百目・渋百目) 熟柿用
西条 広島原産、醂柿・干柿用
堂上蜂谷(蜂谷) 岐阜原産、干柿にして最優良
横野 山口原産、樽柿用
愛宕
四ツ溝 静岡原産、小粒、醂柿用
衣紋 千葉原産、樽柿用
「柿は上品(じょうぼん)の菓子にて、味ひ及ぶ物なし。其品甚だ多し。就中京都のこねり(木練)尤上品なり。大和にては御所柿と云ふ。・・・」(宮崎安貞『農業全書』1697)。 |
誌 |
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中国では、葉・柿蔕(シテイ,shìdì,へた、果実に残存する萼)・柿霜(シショウ,shìshuāng,ほしがき(柿餠, シヘイ, shìbĭng)の表面の白い粉)・根・葉・柿漆(シシツ,shìqī,かきしぶ)を薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.310-312 『(修訂) 中葯志』III/488-490 |
『礼記』「内則」に、周代の君主の日常の食物の一として柿を記す。 |
賈思勰『斉民要術』(530-550)巻4に「種柿」が載る。 |
甘柿は果実を生食する。渋柿は柿渋を採るほか、渋抜きをし、或は干柿にして食う。
また、若葉を食用にし、或は乾燥させ柿の葉茶にして飲む。 |
「柹ヲ枝にあるままにて熟セシメタルモノ」を木練柿(コネリガキ)といい、「澁柹ヲ醂(サハ)シテ澁味ヲ去リタルモノ」を醂柿(サワシガキ)という(『言海』)。甘柿は木練柿で、その優品である御所柿を特に木練柿と呼ぶことがある。渋柿でも熟すれば木になったまま甘くなるものがあり、これを熟柿(ジュクシ)という。 |
渋柿を「さわ(醂;柿の渋みを除く)」して「さわしがき(醂し柿;あわせ柿ともいう)を作るには、次のような方法がある。
① ca.45℃の湯に約10時間漬ける。ただし仕上がりの風味は淡白、かつ果皮を損す。
② 酒気の残る空樽に約一週間詰める。これを樽柿(タルガキ)という。
③ 皮を剥いて天日に干す。これを干柿・乾柿(ホシガキ)という。 |
ほしがき(干柿・乾柿)・つるしがき(釣柿)を作るには、「皮をむいたら縄にかけて通風・日当りのよいところに二十日位陽乾し、水分が減って軟らかくなったとき、心(シン)切と称して一個ずつ指先でもみながら果心をもみきり、さらに一週間後果実がいっそう収縮して皺を生じ、果肉が粘着力を増したとき、第二回の手いれをして、形をもみなおし、数日後縄からはずして形をととのえつつ筵(ムシロ)の上に積重ね、上からも筵をかぶせておくと果面から糖分を滲出するから、筵にならべてふたたび陽乾し、貯蔵する箱に乾燥した新藁を敷いて果実を一並べし、稲藁と交互に重ねて密閉し、二週間くらい経過すると、果面はまったく白粉でおおわれるから、そのまま乾燥したところに貯蔵する。乾燥中に雨湿は禁物・・・」(本山荻舟『飲食事典』)。〔筆者(嶋田)の経験では、自家用にとて出来栄えを問わなければ、吊し柿にしてもう少し簡略に作られる。〕
表面に十分に白粉の吹いたものをころがき(枯露柿・胡露柿、転柿の義か)・白柿と呼び、干して一月ほど、粉の吹く前のものをからすがき(烏柿)・甘干しと呼ぶ。
干柿はそのまま食うほか、千切りにして精進ナマスに加えたり(柿なます)、裏漉しした肉を羊羹に混ぜたり(柿羊羹)する。正月には鏡餅に載せ、或は神棚に供え、かざりがき(飾柿)という。
なお、くしがき(串柿)は、竹串に貫いて作った干柿、扁平に干し固める。正月飾りなどに用いる。 |
柿酢は、「多く甘柿の落実をもちい、ヘタを去って甕(カメ)か桶にいれ、そのまま放置して発酵させ、一か月くらいで上澄を分離し、さらに一~二ヵ月貯蔵すると、橙色の透明な食酢ができ、酸味・甘味に富んで酢飯に好適」(本山荻舟『飲食事典』)。 |
柿渋は、防腐剤・染料など多様に用いる。「未熟ノ澁柿ノ實ヲ搗キテ搾リ取ル汁、澁クシテ臭アリ、コレヲ一番澁又生澁(キシブ)トイフ、其滓ニ水ヲ加ヘテ、再ビ搾リ取ルヲ二番澁トイフ」(『言海』)。 |
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里ふりて柿の木もたぬ家もなし (芭蕉,1644-1694)
祖父(おほじ)親まごの栄(さかえ)や柿みかむ (同)
みじか夜や浅井に柿の花を汲(くむ) (蕪村,1716-1783)
渋柿の花ちる里と成にけり (同)
渋柿をながめて通る十夜かな (裾送,『猿蓑』1691)
(十夜とは、陰暦10月6-15日の十日十夜、寺に僧俗集まり念仏を唱える浄土宗の仏事)
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柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 (子規)
屋根見ゆる凹地の寺や柿紅葉
山囲む帰臥の天地や柿の秋 (碧梧桐)
柿の皮剥きてしまへば茶をいれぬ夜の長きこそうれしかりけれ
(島木赤彦『馬鈴薯の花』1913)
稚(をさな)くてありし日のごと吊柿(つりがき)に陽はあはあはと差しゐたるかも
(1915,斉藤茂吉『あらたま』)
よの常のことといふともつゆじもに濡れて深々し柿の落葉は
(1945,齋藤茂吉『小園』)
雪つもるけふの夕をつつましくあぶらに揚げし干柿(ほしがき)いくつ
(1945,齋藤茂吉『小園』)
柿の赤き実旅の男が気まぐれに泣きて去(い)にきと人に語るな
青柿のかの柿の木に小夜ふけて白き猫ゐるひもじきかもよ
(北原白秋『桐の花』1913)
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諺に「貧乏柿の核(さね)沢山(渋柿の核沢山・痩柿の核沢山)」とは、貧乏人には子が多いことのたとえ(平野雅章『食物ことわざ事典』1978)。 |
カキノキ属の内、黒い材芯を用材とするものを、黒檀と総称する。材は堅く、比重は重く、耐久性に富む。次のようなものを含む。
スラウェシコクタン D. celebica インドネシア(スラウェシ島)産
D. chloroxylon
コクタン(インドコクタン・セイロンコクタン) D. ebenum(烏木;E.Ebony)
D. embryopteris
D. mollis
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