『万葉集』中、ススキをよむ歌 
 

→ススキ


長歌

 ・・・ み雪落(ふ)る 阿騎の大野に 旗すすき しの(小竹)を押し靡べ 
 草枕 たびやとり
(旅宿)せず 古昔(いにしへ)念ひて
     
(1/45,柿本人麻呂)

 ・・・ 旗芒
(はたすすき) 本葉もそよに 秋風の 吹き来る夕に ・・・
     
(10/2089,読人知らず)
 ・・・ はだすすき 穂に出る秋の 芽子
(はぎ)の花 にほへる屋戸を ・・・
     
(17/3957,大伴家持)

 草枕 客
(旅)の憂へを なくさ(慰)もる 事も有るかと 筑波嶺に 登りて見れば
 尾花落
(ち)る 師付(しづく)の田居に 雁泣(かりがね)も 寒く来喧(な)きぬ ・・・
     
(9/1757,高橋連虫麿)

 ・・・ あきはぎ
(秋萩)の ち(散)らへる野辺の はつを花 かりほ(仮廬)にふ(葺)きて ・・・
     
(15/3691,葛井連子老)
 


短歌

 
 秋の野(ぬ)に 咲きたる花を 指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
 芽
(はぎ)が花 を花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花
   をみなへし また藤袴
(ふじばかま) 朝貌(あさがほ)の花
      
(8/1537;1538,山上憶良)
 人皆は 芽子
(はぎ)を秋といふ 縦(よ)し吾は を花が末(うれ)を 秋とは言はむ
     
(10/2110,読人知らず)

 伊香山
(いかごやま) 野邊に咲きたる 芽(はぎ)見れば きみが家なる 尾花し念ほゆ
     
(8/1533,笠金村)
 我が門に 禁
(も)る田を見れば さほ(佐保)の内の
   秋芽子
(あきはぎ)すすき 念(おも)ほゆるかも (10/2221,読人知らず)
 暮立
(ゆうだち)の 雨落(ふ)る毎に 春日野の 尾花の上の 白露念ほゆ (10/2169,読人知らず)
 暮立の 雨打ち零
(ふ)れば 春日野の 草花(をばな)が末の 白露おもほゆ (16/3819,小鯛王)

 秋芽子の 花野のすすき 穂には出でず 吾が恋ひ渡る 隠りつま
(妻)はも
     
(10/2285,読人知らず)
 吾妹児に 相坂山の はだすすき 穂には開(さ)き出でず 恋ひわたるかも
     
(10/2283,読人知らず)
 はたすすき 穂にはな出でと 思ひて有る 情は知らゆ 我も依りなむ
(16/3800,読人知らず)

 妹らがり 我が通う路の 細竹
(しの)すすき 我し通はば 靡け細竹原(しのはら)
      (7/1121,読み人知らず)
 秋の野の 草花
(をばな)が末を 押しなべて 来しくもしるく あへる君かも (8/1577,阿部虫麿)
 
 はだすすき 久米の若子が いましける 三穂の石室は 見れど飽かぬかも
(3//307,博通法師)

 はつをばな はな
(花)に見むとし あま(天)のかは(河)
     へな
(隔)りにけらし 年の緒ながく (20/4308,大伴家持)
 めづらしき 君が家なる はなすすき 穂に出づる秋の 過ぐらし惜しも
(8/1601,石川広成)
 秋の野の 草花が末に 鳴く百舌鳥
(もづ)の 音聞くらむか 片聞く吾妹 (10/2167,読人知らず)
 秋の野の 尾花が末の 生
(お)ひ靡き 心は妹に 依りにけるかも (10/2242,読人知らず)
 たかまど
(高円)の をばなふ(吹)きこす 秋風に
     ひも
(紐)(解)きあけな ただ(直)ならずとも (20/4295,大伴池主)
 さお鹿の 入野のすすき 初尾花 何時
(いつ)しか妹の 手を枕かむ (10/2277,読人知らず)
 にひむろ
(新室)の こどき(蚕時)にいた(到)れば はだすすき
   穂にで
(出)しきみ(君)が 見えぬこのころ (14/3506,読人知らず)
 道の辺の を花が下の 思ひ草 今更になど 物か念はむ
(10/2270,読人知らず)

 かのころと 宿
(ね)ずやなりなむ はだすすき
    宇良野のやま
(山)の つく(月)かたよ(片寄)るも (14/3565,読人知らず)
 吾が屋戸の 草花
(をばな)が上の 白露を 消たずて玉に 貫く物にもが (8/1572,大伴家持)
 吾が屋戸の を花押し靡べ 置く露に 手触れ吾妹児(わぎもこ) 落(ち)らまくも見む
     
(10/2172,読人知らず)
 秋づけば 尾花が上に 置く露の 消ぬべくも 吾は念ほゆるかも
(8/1564,日置長枝娘子)
 かへ
(帰)りき(来)て 見むとおも(思)ひし わがやど(宿)
   あきはぎ
(秋萩)すすき ち(散)りにけむかも (15/3681,秦田麿)
 めひ
(婦負)の野の すすきお(押)しな(靡)べ ふ(降)るゆき(雪)
   やど
(宿)(借)るけふ(今日)し かな(悲)しくおも(思)ほゆ (17/4016,高市連黒人)
 


 陸奥の 真野の草原
(かやはら) 遠けども 面影にして 見ゆと云ふ物を (3/396,笠女郎)
 かはかみ
(川上)の ねじろ(根白)たかがや(高萱) あやにあやに
   さ宿
(ね)さ寝てこそ こと(言)にて(出)にしか (14/3497,読人知らず)

 吾が勢子は 借廬作らす 草
(かや)無くは 小松が下の 草を苅らさね (1/11,間人皇后)
 をか
(岡)によ(寄)せ わ(吾)がか(刈)るかや(萱)の さねかや(萱)
   まことなご
(柔)やは ね(寝)ろとへなかも (14/3499,読人知らず)
 み吉野の 蜻
(あきづ)の小野に 苅る草(かや)の 念(おもひ)乱れて 宿(ぬ)る夜しそ多き
     
(12/3065,読人知らず)
 大名児
(おおなご)を 彼方(をちかた)野辺に 苅る草の 束の間も 吾忘れめや
     
(1/110,草壁皇子)
 紅の 浅葉の野良に 苅る草の 束の間も 吾を忘らすな
(11/2763,読人知らず)
 葛城の 高間の草野
(かやの) 早(はや)(し)りて 標(しめ)指しましを 今そ悔しき
     
(7/1337,読人知らず)
 天
(あめ)に有るや 神楽良(ささら)の小野の 茅草(ちがや)苅り 草(かや)苅りばかに 鶉を立つも
     
 (16/3887,読人知らず)

 はだすすき 尾花逆
(さか)(葺)き 黒木もち 作れる室(いへ,むろ)は 萬代までに
     
(8/1637,元正天皇)
 蜓
(あきつ)野の 尾花苅り副え 秋芽子の 花を葺かさね 君が仮廬(かりほ)
     
(10/2292,読人知らず)
 黒樹(くろき)取り 草も苅りつつ 仕へめど
     勤(いそ)しきわけ(奴)と 誉めむともあらず (4/780,大伴家持)
 


旋頭歌

 
 はだすすき 穂には開き出でぬ 恋を吾がする 玉かぎる 直
(ただ)一目のみ 視し人故に
     
(10/2311,読人知らず)




 



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