『万葉集』中、アシ(葦)をよむ歌
→ヨシ(アシ)
長歌
葦原の 水穂の国に 手向けすと 天降り座しけむ 五百万 千万神の
神代より 云ひ継ぎ来る かんなびの 三諸の山は ・・・
(13/3227,読人知らず。ほか、多数)
葦原の 水穂の国は 神ながら 事挙げせぬ国 然れども 辞挙げぞ吾がする・・・
(13/3253,柿本人麻呂)
葦原の みづほの国を あまくだり しらしめしける すめろぎの 神のみことの
御代かさね 天の日嗣と しきませる 四方の国には ・・・ (18/4094,大伴家持)
・・・ 葦原の 水穂の国を ・・・(1/167,柿本人麻呂)
・・・ 葦原の 水穂の国に ・・・(9/1804,田辺福麻呂)
・・・ あし(葦)がち(散)る 難波のみ津に ・・・ (20/4331,大伴家持)
・・・ あしがちる 難波にきゐ(居)て ・・・ (20/4398,大伴家持)
・・・ なぎさ(渚)には あしがも(葦鴨)さわ(騒)き
さざれなみ(波) た(立)ちてもゐ(居)ても ・・・ (17/3993,大伴池主)
・・・ あかとき(暁)の しほ(潮)み(満)ちくれば
あしべ(葦辺)には たづ(鶴)な(鳴)きわた(渡)る ・・・ (15/3627,読人知らず)
ゆふ(夕)されば あしべ(葦辺)にさわ(騒)き あ(明)けくれば おき(沖)になづさふ
かも(鴨)すらも つま(妻)とたぐひて ・・・
反歌
たづ(鶴)がな(鳴)き あしべ(葦辺)をさして と(飛)びわた(渡)る
あなたづたづし ひと(独)りさぬ(寝)れば (15/3625;3626, 丹比大夫)
やすみしし 吾ご大王(おほきみ)の 在り通ふ なには(難波)の宮は
・・・ 葭べには 鶴が鳴(ね)動(とよ)む ・・・
反歌
塩干れ(ふ)れば 葦辺にさわく 白鶴(あしたづ)の 妻呼ぶ音(こゑ)は 宮もとどろに
(6/1062;1064, 田辺福麻呂)
・・・ あし(葦)か(刈)ると あま(海人)のをぶね(小舟)は ・・・ (17/4006,大伴家持)
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短歌
水門(みなと)の 葦の末葉(うらは)を 誰か手折りし 吾が背子が 振る手を見むと 我そ手折りし
(7/1288,読人知らず)
海原の ゆたけき見つつ あし(葦)がち(散)る
なには(難波)にとし(年)は へ(経)ぬべくおも(思)ほゆ (20/4362,大伴家持)
葦の根の ねもころ念ひて 結びてし 玉の緒と云はば 人解かめやも (7/1324,読人知らず)
葦辺行く 鴨のは(羽)がひに 霜ふりて 寒きゆふべは 倭し念(おも)ほゆ (1/64,志貴皇子)
葦辺往く 鴨の羽音の 声(おと)にのみ 聞きつつもとな 恋ひわたるかも
(12/3090,読人知らず)
あし(葦)の 葉にゆふぎり(夕霧)た(立)ちて かも(鴨)が鳴(ね)の
さむ(寒)きゆふべ(夕)し な(汝)をはしの(偲)はむ (14/3570,防人の歌)
葦鴨の 多集(すだ)く池水 溢るとも 儲溝(まけみぞ)の方(へ)に 吾越えめやも
(11/2833,読人知らず)
葦辺なる 荻の葉さやぎ 秋風の 吹き来るなへに 雁鳴き渡る (10/2134,読人知らず)
おし照る 難波ほり江の 葦辺には 雁宿(ね)たるらむ 霜の零(ふ)らくに (10/2135,読人知らず)
葦辺往く 雁の翅を 見るごとに きみが佩(お)ばしし 投箭(なげや)し思ほゆ
(13/3345,読人知らず)
葦辺には 鶴(たづ)がね鳴きて 湖(みなと)風 寒く吹くらむ 津乎(つを)の崎はも
(3/352,若湯王)
湯の原に 鳴く蘆たづは 吾が如く 妹に恋ふれや 時わかず鳴く (6/961,大伴旅人)
君に恋ひ 痛もすべ無み 葦鶴(あしたづ)の 哭(ね)のみし泣かゆ 朝夕にして (3/456,余明軍)
いへ(家)おもふと い(寝)をね(寝)ずをれば たづがなく
あしへ(葦辺)もみえず はる(春)のかすみ(霞)に (20/4400,大伴家持)
葦たづの さわく入江の 白菅の 知らせむ為と こちたかるかも (11/2768,読人知らず)
草香江の 入江に求食(あさ)る 蘆鶴の あなたづたづし 友無しにして (4/575,大伴旅人)
若浦に 塩満ち来れば かた(潟)を無み 葦辺を指して たづ(鶴)鳴き渡る (6/919,山部赤人)
葦辺より 満ち来る塩の 弥益(いやまし)に 念(おも)へか君が 忘れかねつる
(4/617,山口女王)
湊入(みなといり)の 葦別(あしわけ)小舟 障(さはり)多み 吾が念(おも)ふきみに あはぬ頃かも
(11/2745,読人知らず)
湊入の 葦別小舟 障(さはり)多み 今来む吾を よどむと念ふな (11/2998,読人知らず)
葦苅に ほりえ(堀江)こ(漕)ぐなる かぢ(楫)のおと(音)は
おほみやひと(大宮人)の みなき(聞)くまでに (20/4450,大伴池主)
大船に 葦荷苅り積み しみみにも 妹は情(こころ)に 乗りにけるかも (11/2748,読人知らず)
みなと(水門)の あし(葦)がなか(中)なる たま(玉)こすげ(小菅)
か(刈)りこ(来)わ(吾)がせこ(背子) とこ(床)のへだし(隔)に (14/3445,読人知らず)
難波人 葦火燎(た)く屋の すして有れど 己が妻こそ 常めづらしき (11/2651,読人知らず)
いは(家)ろには あしふ(葦火)た(焚)けども す(住)みよ(好)けを
つくし(筑紫)にいた(到)りて こ(恋)ふしけもはも (20/4419,物部真根)
花細(ぐは)し 葦垣越しに 直(ただ)一目 相視し児故 千遍(ちたび)嘆きつ (11/2565,読人知らず)
人間(ひとま)守り 蘆垣越しに 吾妹児子を 相見しからに 事そさだ多き (11/2576,読人知らず)
蘆垣の 中のにこ草 にこよかに 我と笑まして 人に知らゆな (11/2762,読人知らず)
葦垣の 末掻き別けて 君越ゆと 人にな告げそ ことはたな知れ (13/3279,読人知らず)
あしかき(葦垣)の くまと(隈処)にた(立)ちて わぎもこ(吾妹児)が
そて(袖)もしほほに な(泣)きしそも(思)はゆ (20/4367,刑部直千国)
わがせこ(背子)に こ(恋)ひすべ(術)なかり あしかき(葦垣)の
ほか(外)になげ(歎)かふ あれ(吾)しかな(悲)しも
あしかきの ほかにもきみが よ(寄)りた(立)たし
こ(恋)ひけれこそば いめ(夢)にみ(見)えけれ (17/3975;3977,大伴池主と大伴旅人の贈答歌)
吾が聞きし 耳に好く似る 葦の末(うれ)の 足痛(ひ)く吾が勢 勤めたぶべし
(1/128,石川女郎)
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枕詞「蘆垣の」(すぐ古びて乱れやすいので、「古り」「乱れ」などにかかる)
おし照る 難波の国は 葦垣の 古りにし郷と ・・・(6/928,笠金村)
・・・ 葦垣の 思ひ乱れて ・・・ (9/1804,田辺福麻呂)
・・・ 葦垣の 思ひ乱れて ・・・ (13/3272,読人知らず)
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