澤瀉(おもだか)の歌
作者名 |
薄田泣菫 (1877-1945) |
作品名 |
澤瀉の歌 |
制作年代 |
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収載書名 |
二十五絃 |
刊行年代 |
1905 |
その他 |
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こもり沼(ぬ)の水銹(みさび)の面に、
澤瀉のひと花ぐきや、
夏の日の光にぬれて、
息ざしのけはひ深げに、
もゝとせの生命の釀(かも)し、
葉とひらき、花とくゆりて、
ひと夏のこゝろ驕(おご)りや、
こもり沼の上(うは)なだら水。
やはら風そよろの渡り、
葉はゆれぬ、花はこぼれぬ、
沼姫のほくそゑまひか、
さゝら波輪形(わなり)の皺み。
今しこそ、胸のとろ火の
もゝ絡(がら)み靜かに解けめ。
使ひ女の老女(をさめ)しろ鷺、
眠り目の夢見すがたや。
ありや、かの歸依(きえ)の和魂(にぎたま)、
あくがれの心のふかみ、
かゝる日のふと現はれて、
束のまを、――また身隱るゝ。
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