辨 |
ホウキギは、ユーラシア大陸原産で、日本では古来各地で栽培されてきた植物。
一方、東海以西の海浜に生える在来品をイソホウキギと呼び、①別種(Kochia littorea, Bassia littorea)としたり、②ホウキギの変種(Kochia
scoparia var. littorea)としたり、③ホウキギの野生化したものとしたりしてきたが、『改訂新版 日本の野生植物』は ④「種として分けるのは無理」であり「おそらく東アジアの海岸に適応した野生の地方型とみなすのが妥当であろう」という。なお、『増補改訂
牧野新日本植物圖鑑』および YList は ①の立場であり、『日本の帰化植物』は②てある。
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ホウキギ属 Bassia(沙冰藜 shābīnglí 屬)には、北半球温帯に数十種がある。
incl. Kochia(地膚 dìfū 屬)
B. hyssopifolia(Kochia hyssopifolia, Echinopsilon hyssopifolius;
鈎刺霧冰藜・鈎状刺果藜) スペイン・南ロシア・西&中央アジア・シベリア・モンゴル・甘粛産
B. laniflora(Kochia laniflora;毛花地膚) 歐洲・ロシア・中央アジア・シベリア産
B. lasiantha(Kirilowia eriantha;棉藜) 新疆・中央アジア産
B. odontoptera(Kochia odontoptera, K.iranica;尖翅地膚) 中央アジア・イラン産
B. pilosa(Panderia turkestanica;兜藜) 西&中央アジア産
イトバホウキギ B. prostrata(Kochia prostrata;木地膚)
華北・東北・西北・シベリア・中央&西アジア・歐洲・北アフリカ産
ホウキギ B. scoparia(Kochia scoparia;地膚・掃帚菜)
f. trichophylla(掃帚菜)
シラゲホウキギ(ミナトイソボウキ) var. subvillosa(Kochia scoparia var.subvillosa,
K. sieversiana auct. non C.A.Mey;鹼地膚 jiāndìfū)
B. stellaris(Kochia stellaris, K.cana) イラン・アフガニスタン・新疆・甘粛産
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ヒユ科 Amaranthaceae(莧 xiàn 科)については、ヒユ科を見よ。 |
訓 |
和名は、茎・枝を乾燥させて箒(ほうき)として用いることから。 |
『本草和名』地膚子に、「和名尓波久佐、一名末岐久佐」と。
『延喜式』地膚子に、「マキクサ」と。
『倭名類聚抄』地膚に、「和名迩波久佐、一云末木久佐」と。
『大和本草』に、「地膚{ハハキギ}」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』12に、「ハゝキゞ今ホホキギト云 ハキゞ南部にて箒ヲハキト云。故ニ此名アリ ホホキボウ佐州 ホホキボ同上」と。 |
説 |
本州(東海以西)・四国・九州・朝鮮・漢土から、広くアジア温帯に分布、歐洲・北&南アフリカ・南北米洲にも野生化。 |
誌 |
中国では、全草のほか、種子を地膚子(チフシ,dìfūzĭ)と呼び、薬用にする。中薬志Ⅱ』pp.114-119 『全國中草藥匯編 上』pp.337-338 『(修訂) 中葯志』III/326-331
なお、地方により次のようなものを地膚子として用いる。
シロザ Chenpopdium album(藜・白藜・灰菜)
シナガワハギ Melilotus officinalis subsp. suaveolens(M.suaveolens;
草木樨・野苜蓿・辟汗草)
カラマツヤナギ Baeckea frutescens(崗松・鐵掃把・掃把枝) フトモモ科
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『爾雅』釋草に「葥(セン,jiàn)、王蔧(オウスイ,wángsùi)」と、その郭璞注に「王帚(オウシュウ,wángzhŏu)也。似藜(レイ,lì)、其樹可以爲埽篲(ソウスイ,sàosùi)。江東呼之曰落帚(ラクシュウ,luòzhŏu)」と。 |
『万葉集』に、たまばはき(玉箒)と呼ばれている植物は、コウヤボウキ Pertya scandens。 |
平安時代に箒木(ははきぎ)と呼ばれたものは、信濃国薗原(美濃国との境という)にあったという伝説上の木。遠くから見れば箒を立てたように見えるが、近づくと じつはそんな木はなく、何も見えない、という。
薗原や ふせや(伏屋)におふる 帚木の ありとは見えて あはぬ君かな
(是則,『古今和歌集』)
あはざらん ことをばしらで はゝきぎの ふせやときゝて たづねきにけり
(西行,『山家集』)
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「葉を食にもし、あへ物あつ物種々料理に用ゆ。圃に畦作しうゆるに及ばず。屋敷の内庭の端々能く肥へたる所、又は菜園の道ばたかきぎはなど物の妨げにならぬ所を見合せうゆべし」(宮崎安貞『農業全書』1697)
「晩春から初夏に若苗または若葉をとり、ゆでて浸し物・和え物にすると淡白で雅味がある」(本山荻舟『飲食事典』)。
また、秋田地方では種子を「とんぶり」と呼び、食用にする。 |
穉(をさな)かりし頃しのばなと此(この)ゆふべ帚(はうき)ぐさの実われに食(く)はしむ
(1945,齋藤茂吉『小園』)
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近年は、赤く紅葉するものがコキアの名で園芸品として栽培されている。 |