しのぶ (忍)

学名  Davallia mariesii
日本名  シノブ
科名(日本名)  シノブ科
  日本語別名  シノブグサ(忍草)、コトナシグサ
漢名  骨碎補(コツサイホ,gusuibu)
科名(漢名)  骨碎補科
  漢語別名  海州骨碎補
英名  Ball fern, Hare's-foot fern
2007/06/19 小石川植物園


 シノブ科 Davalliaceae(骨碎補科)には、約9属100種がある。
   Araiostegia 
中国乃至ヒマラヤに約12種
     A. hymenophylloides
   シノブ屬 Davallia(骨碎補屬)
 アジア熱帯を中心に約40種
     D. denticulata
     シノブ D. mariesii(骨碎補・海州骨碎補)
     C. orientalis(大葉骨碎補)
     D. trichomanoides(D.bullata)
   Davallodes 
熱帯アジアを中心に約10種
     D. hirsutum
   Gymnogrammitis
1種
     G. dareiformis 
中国・インドシナ・ヒマラヤに分布
   Humata(陰石蕨屬)
     H. tyermannii(圓蓋陰石蕨・白毛蛇)
   Leucostegia
2種
     L. immersa
東南アジア乃至ヒマラヤに分布。『週刊朝日百科 植物の世界』12-56
   キクシノブ属 Pachypleuria 
アジア熱帯を中心に約40-50種
     P. angustata 
     キクシノブ P. repens(Humata repens;陰石蕨・紅毛蛇)『週刊朝日百科 植物の世界』12-56
     シマキクシノブ P. vestita(Humata vestita,H.trifoliata)
   Scyphularia
8種
     S. pentaphylla 『週刊朝日百科 植物の世界』12-56 
 シダ植物については、しだを見よ。
 和名は「忍ぶ草」の略、土のないところに生えることから。
 つまり「忍ぶ
(上二段活用)」意で、人を「偲ぶ(五段活用)」意ではない。
 日本・朝鮮(南部)・中国(遼寧・山東・江蘇)・臺灣に分布。
 木や岩の上に着生する。
 忍玉(吊忍)にし、軒下などに吊して観賞する。
 日本の古典文学に「しのぶ草」というものは、
  (1) シノブ
  (2) ノキシノブ
  (3) カンゾウ
のいずれかであると言う。

 また、「ことなし草」とは「しのぶ草」のことであるといい、「わすれ草」は「しのぶ草」と同じものの別名であるという。
 「ことなし(事成?)草」は、通説では「しのぶ草」。

   つまにおふる ことなしぐさを 見るからに たのむ心ぞ かずまさりける
     
(源庶明「人のもとにはじめてふみつかはしたりけるに、
         返事はなくて、たゞかみをひきむすびてかへしたりければ」、『後撰集』)

 ただし、『枕草紙』第66段は二者を区別する。
 「しのぶぐさ」とカンゾウの関係について。

 『伊勢物語』第100段に、「忍ぶ
(偲ぶ)」と「忘る」という反対語を名に持つ草を用いて、
 むかし、おとこ、後涼殿(こうらうでん)のはさまをわた(渡)りけれは、あるやむことなき人の御つほね(局)より、「わす(忘)れくさ(草)をしの(忍)ふくさ(草)とやい(言)ふ」とて、い(出)ださせたまへりけれは、たまはりて、
   忘草お(生)ふるのへ(野邊)とは見るらめと
      こはしの(忍)ふなり のち(後)もたの(頼)まん
 
(ワスレグサはカンゾウの和名。この女性は、シノブとカンゾウと、どちらをさしだして問いかけたのだろうか。)

 同じ話を、『大和物語』第162段では、
 又、ざい(在)中將(在原業平)、内にさぶらふに、宮すん所の御かた(方)よりわすれぐさ(忘れ草)をなむ「これはなに(何)とかいふ」とてたまへりければ、中將、
   わすれぐさお
(生)ふるのべ(野邊)とはみるらめど
      こはしのぶなりのち
(後)もたのまむ
となむありける。おな
(同)じくさ(草)をしのぶぐさ、わすれぐさといへば、それよりなむよみたりける。
 (最後につけくわえられた注記は、著者の誤解であろうが、これより後 しのぶぐさはカンゾウの別名の一となった。) 
 『八代集』等に、

  ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人を忍ぶの 草ぞおひける
     
   (貞登、『古今集』)
  ・・・わがやどの しのぶぐさお(生)ふる いたま(板間)あら(荒)
      ふるはるさめ
(春雨)の も(漏)りやしぬらん (紀貫之、『古今集』)
  君しのぶ 草にやつるゝ ふるさとは 松虫のねぞ かなしかりける
      
(よみ人しらず、『古今集』)
  山たかみ つねにあらしの ふくさと
(里)は にほひもあへず 花ぞちりける
      
( 紀利貞、『古今集』物名「しのぶぐさ」)

  ももしきや 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり
      
(順徳天皇,1197-1242、『続後撰集』『百人一首』)
 
 紫式部『源氏物語』夕顔に、「(明け方、源氏は夕顔を伴って車に乗り)、そのわたり近きなにがしの院におはしまし着きて、あづかり(管理人)召し出づる程、荒れたる門(かど)の忍ぶ草繁りて見上げられたる、たとしへなく木(こ)ぐらし。霧も深く露けきに簾垂(すだれ)をさへ上げ給へば、御袖もいたく濡れにけり」と。
 「しのぶもじずり」について

 『古今和歌集』巻14に、

   みちのくのしのぶもぢずり たれゆゑに みだれんと思ふ 我ならなくに
     
(源融,822-895。『伊勢物語』・『小倉百人一首』では
       
「陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに みだれそめにし 我ならなくに」)

とうたわれる、「しのぶもぢずり」とは何かについて二説ある(『日本文学大系 伊勢物語』補注)
 一に、福島県信夫(しのぶ)郡に産した摺り染めとする。中世以来ある説で、もぢずりは「戻摺り」であり、髪を乱したように摺ったもの、または紋を縦横となく捩って摺ったものなどという。
 後には、信夫郡の字忍の地(岡山村大字山口)に「もぢずり石」が作られた。

 あくれば、しのぶもぢ摺の石を尋て、忍ぶのさとに行。遥山陰の小里に、石半土に埋てあり。里の童部の来りて教ける、昔は此山の上に侍りしを、往来の人の麦草を荒して此石を試侍るをにくみて、此谷につき落せば、石の面下ざまにふしたり、と云。さもあるべきことにや。
  早苗とる手もとや昔しのぶ摺
芭蕉『奥の細道』(1689)

 一に、賀茂真淵の説として、忍草という植物で摺ったものという。ここにいう忍草は、シダの仲間のシノブではなく、垣衣と書き、垣根や屋根や石の上に寄生する植物だという。
 なお、こんにちモジズリと呼ぶ草は、「しのぶもぢずり」とは関係がない。


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