辨 |
バショウ科 Musaceae(芭蕉 bājiāo 科)は、旧世界の熱帯・亜熱帯に2(-3)属 約40種がある。
アビシニアバショウ属 Ensete(象腿蕉屬)
バショウ属 Musa(芭蕉屬)
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バショウ属 Musa(芭蕉 bājiāo 屬)は、アジア(熱帯・亜熱帯)・マレーシア・オーストラリア(北部)に約70種がある。
マレーヤマバショウ(バナナ・ミバショウ) M. acuminata (小果野蕉・阿加蕉)
原種はマレーシア西部からインド東部に野生。生食用バナナはその改良品種
サンジャクバナナ 'Dwarf Cavendish'(M.cavendishii; 牙蕉)
モラードバナナ(赤バナナ) 'Morado'
リュウキュウバショウ(広義) M. balbisiana(野蕉・倫阿蕉)
兩廣・雲南・ヒマラヤ・インド・インドシナ・フィリピン・ニューギニア産。
食用バナナの原種の一。『週刊朝日百科 植物の世界』10-197
リュウキュウイトバショウ var. liukiuensis(M.liukiuensis, M.textilis
var.liukiuensis) 九州・琉球産
subsp. malaccensis マレー半島産
バショウ M. basjoo (芭蕉)
センナリバナナ M. chiliocarpa
ヒメバショウ(ビジンショウ) M. coccinea(M.uranoscopos;指天蕉・美人蕉・紅蕉)
兩廣・貴州・雲南産。日本には江戸初期頃に福建から(一説に琉球から)長崎に渡来
『中国本草図録』Ⅸ/4436・『週刊朝日百科 植物の世界』10-195
M. × corniculata(E.Horn plantain) リョウリバナナの一
フェイバナナ M. fehi ニューギニア・ポリネシアで食用に栽培
『週刊朝日百科 植物の世界』10-197
タイワンバショウ M. formosana(臺灣芭蕉)
M. ingens ニューギニア産、世界最大の野生バナナ
コウトウバショウ M. insularimontana(島山芭蕉・蘭嶼芭蕉)
M. itinerans
タイワンバショウ var. formosana(M.formosana, M.basjoo var.formosana;阿寛蕉)
カバランバショウ var. kavalanensis
M. nagensium(勒加卜蕉)
M. nana(香蕉) 臺灣・福建・兩廣産 『中国本草図録』Ⅰ/0433
リンゴバショウ M. ornata(紫苞芭蕉)
バナナ M.× paradisiaca(M.×sapientum; 大蕉・粉蕉・芭蕉;E.Plantain)
リョウリバナナの一。『中国本草図録』Ⅸ/4437
サオトメショウ M.rosacea
M. rubra (阿希蕉) 雲南・ビルマ・タイ産
マニラアサ(アバカ) M. textilis (蕉麻・馬尼拉麻)
フィリピン原産 臺灣・兩廣・雲南で栽培
繊維作物、実は種子が多く食用にならない
コウトウアバカ var. tashiroi
ベルチナバナナ M. velutina(朝天蕉)
M. wilsonii(樹頭芭蕉)
ヤミバショウ M. yamiensis(雅美芭蕉)
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世界で食用に栽培するバナナ類については、バナナを見よ。 |
漢名の芭蕉(バショウ,bājiāo)は、広義には芭蕉屬 Musa の植物の総称、(今日では)狭義にはバショウ M.basjoo を指す。
古くから芭蕉の語はバショウ属の総称であるようだが、のちに実が食用になるもの(バナナの類)を甘蕉として区別した。やがてバナナの栽培が普及すると、一般には芭蕉・甘蕉ともにバナナを指すようになり、今日に至る。 |
訓 |
和名は、漢名の音。 |
『本草和名』甘蕉に、「和名波世乎波乃祢」と。
『倭名類聚抄』芭蕉に、「和名発勢乎波」と。
『大和本草』芭蕉に、「開二黃花一極稀、東鏡ニ其花ヲ倭俗優曇華(ウドンゲ)ト云由記セリ」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』に、「甘蕉 バセヲハ和名鈔 ニハミグサ バセヲ今名 ウドンゲ東鑑花ノ名」と。 |
漢名芭蕉について。芭蕉は葉を落とさず、一枚の葉が舒(のび)ると一枚が焦(ひからび)るので、蕉という(陸佃『埤雅』)。また、俗に干物を巴と謂うので、巴も蕉の意である、という(李時珍『本草綱目』引)。 |
属名 Musa の由来については二説ある。一に、バナナのアラビア名 mawza から。一に、ローマの医師 Antonio Musa への献名。
種小名 basjoo は、和名から。 |
英名 banana は、西アフリカのウォロフ語による バナナの現地名 banana から。16世紀末のスペイン語・ポルトガル語を経由して。
Japanese というのは、バショウを日本原産と考えたことから。 |
説 |
中国における従来の考えは、バショウは琉球の原産であり(但し臺灣には野生があるかもしれない)、大陸では秦嶺・淮河以南の各地で観賞用に栽培されている、というものであった。しかしながら、近年
四川で野生品が見つかり、バショウの中国原産説が出されている、という。
日本では、古くから 観葉植物として暖地(関東以西)で栽培してきた。古く中国から渡来したという説もあり、本来自生したものかはうたがわしい、という。 |
バショウ属の中で、もっとも耐寒性がある。 |
茎は地下にあり、地上の茎のように見える部分(偽茎・偽稈)は葉鞘の集まり、剥いても中身は無い。
果実はバナナ状だが、長約6cmと小さく、中には黒い種が詰まっていて、食用にはならない。ただし、日本ではそもそもよほどの暖地を除き、種子が成熟する以前に地上部は枯死する。 |
欧米では、観葉植物として栽培するが、日本原産の植物と考えており、学名・英名はこれによる。 |
誌 |
中国では、バショウの根茎を芭蕉根・芭蕉頭と呼び、葉を芭蕉葉と呼び、花・蕾を芭蕉花と呼び、種子を芭蕉子と呼び、茎の汁を芭蕉油と呼び、それぞれ薬用にする。『全国中草葯匯編』下/302-303 |
『列子』周穆王篇第九章に、「鄭人(ていひと)に野に薪とる者有り。駭(おどろ)ける鹿に遭ひ、御(むか)へて之を撃ち、之を斃(たふ)せり。人の之を見んことを恐る。遽(にはか)にして諸(これ)を隍中(くわうちゅう。から堀の中)に蔵(かく)し、之を覆ふに蕉(せう)を以てし、其の喜びに勝へず」と。
この蕉は樵に通じ、たきぎ・そだの類と解釈されているが、歴史的にはバショウのイメージと重なっている。 |
沈括(1031-1095)『夢溪筆談』17「書画」に、「(張)彦遠の画評に言はく、〈王維の物を画(ゑが)くに、多く四時を問はず。花を画くが如きは、往々桃・杏(あんず)・芙蓉(ふよう)・蓮花(れんか)を以て同じく一景に画く〉と。予の家の蔵する所の摩詰(王維)が画ける袁安臥雪図は、雪中の芭蕉有り。此れ乃ち心に得て手に応じ、意到れば便ち成るものなり。故に理に造(いた)り神に入り、迥(はるか)に天意を得たり。此れ、俗人と論ずべきは難し」と。
張彦遠は、唐代、晩唐(836-906)の絵画史家。著に『歴代名画記』があるが、この一文は載せない。
王維(699?-761)は、唐代、盛唐(710-765)の詩人、画家。字は摩詰。
袁安臥雪とは、故事人物画の画題。 袁安(?-92)、字は邵公、汝南汝陽(河南省)の人。『汝南先賢伝』(『後漢書』45引)に、「時に(洛陽に)大いに雪ふり、地に積もること丈余なり。洛陽令、自ら出でて案行し、人家を見る。皆な雪を除き、出でて食を乞う者有り。袁安の門に至り、行路の有る無し。謂えらく、〈安、已に死せり〉と。人をして雪を除かしめ、戸に入りて安を見るに、僵臥{きょうが}せり。問う、〈何を以てか出でざる〉と。安曰く、〈大いに雪ふり、人皆な餓ゆ。宜しく人に干{もと}むべからず〉と。令 以為{おもへ}らく、〈賢なり〉と。挙げて孝廉と為す」とある。
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日本では、『古今集』(ca.910)10物名に 紀乳母(きのめのと)が「さゝ(笹)・まつ(松)・びは(枇杷)・はせをば(芭蕉葉)」を詠いこんだ歌が載る。
いさゝめに 時まつまにぞ 日はへぬる 心ばせをば人に見えつゝ
また『本草和名』(918)・『倭名類聚抄』(931-938)などに、「はせをは」とある。 |
西行(1118-1190)『山家集』に、
かぜふけば あだにや(破)れ行 ばせをばの あればと身をも たのむべきかは
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江戸時代の俳人 松尾芭蕉(1644-1794)は、1680年深川村六間堀に草庵を営み、翌年門人からバショウ一株を贈られて以来、それを芭蕉庵と呼んだ。
芭蕉葉を柱にかけん庵の月
帆となり帆となる風の芭蕉かな
此寺は庭一盃のばせを哉
幾霜に心ばせをの松かざり
芭蕉葉は何になれとや秋の風 (路通,『猿蓑』1691)
はせを葉や打かへし行月の影 (乙刕,『猿蓑』1691)
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