辨 |
Styrax japonica は、形態的変異に富む多型種という。次のものの写真を附載した。
ベニガクエゴノキ f. rubricalyx
シダレエゴノキ f. pendulus
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エゴノキ科 Styracaceae(安息香 ānxīxiāng 科)には、約11属150-180種がある。
エゴハンノキ属 Alniphyllum(赤楊葉屬)
アメリカアサガラ属 Halesia(銀鐘花屬)
Huodendron(山茉莉屬) 漢土南部・インドシナに3-4種
H. biaristatum(雙齒山茉莉) 廣西・雲貴・インドシナ産
ssp. parviflorum(小花山茉莉・嶺南山茉莉) 江西・湖南・兩廣産
Melliodendron(陀螺果屬) 1種
カラスナシ M. xylocarpum(陀螺果・鴉頭梨・水冬・白花樹)
江西・湖南・兩廣・雲貴産
Parastyrax(茉莉果屬) 1-2種
P. lacei(茉莉果) 雲南・ミャンマー産
P. macrophylla(大葉茉莉果・大呵啡) 雲南産
アサガラ属 Pterostyrax(白辛樹屬)
Rehderodendron(木瓜紅屬) 漢土・インドシナに4-10種
R. indochinense(越南木瓜紅) 雲南・ベトナム産
R. kwangtungensis(廣東木瓜紅) 湖南・兩廣・雲南産
R. kweichowense(貴州木瓜紅) 兩廣・雲貴産
R. macrocarpum(木瓜紅) 廣西・四川・雲南産
Sinojackia(秤錘樹屬) 漢土南部に4-7種
S. henryi(稜果秤錘樹) 兩湖・廣東・四川産
S. rehderiana(狹果秤錘樹) 江西・湖南・廣東産
S. xylocarpa(秤錘樹) 江蘇産 南京・杭州・上海・武漢で栽培
エゴノキ属 Styrax(安息香屬)
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エゴノキ属 Styrax(安息香 ānxīxiāng 屬)には、約130種がある。
S. argentifolius(銀葉安息香・銀葉野茉莉) 廣西・雲南産 『雲南の植物Ⅲ』221
S. benzoides(滇南安息香) 雲南・インドシナ産
アンソクコウノキ S. benzoin(印度安息香)
バングラデシュ・マレシア・ジャワ・スマトラ産
樹脂の安息香 benzoin を採る 『中薬志Ⅲ』pp.556-559
benzoin は、アラビア語 lubanjawi(ジャワの香料・乳香)から
S. chinensis(中華安息香) 廣西・雲南・インドシナ産『中国本草図録』Ⅱ/757
S. confusus(賽山梅・白山龍) 華東・兩湖・兩廣・四川・貴州産
S. dasyantha(垂珠花・白客馬葉) 河南・山東・華東・兩湖・廣西・四川・貴州・雲南産
S. faberi
var. faberi(白花龍) 臺灣・華東・兩湖・兩廣・貴州・四川産
タカサゴエゴノキ var. formosanus(S.faberi var. matsumurae,
S.matsumurae;苗栗白花龍) 臺灣産
タイワンエゴノキ S. formosanus(臺灣安息香) 臺灣・華東・湖南・兩廣産
S. grandiflora(大花野茉莉) 臺灣・兩廣・西南産 『雲南の植物Ⅱ』203
漢土では南嶺以北にはS.japonicaが、以南にはS.grandifloraが分布
S. hemsleyanus(老鴰鈴・墨泡) 河南・陝西・兩湖・四川・貴州産
エゴノキ S. japonicus(野茉莉・木香柴・野白果樹・山白果)
var. calycothrix(毛萼野茉莉)
コウトウエゴノキ var. kotoensis(var. tomentosus, var.iromotensis)
S. macranthus(大蕊野茉莉) 廣西・雲南産 『雲南の植物Ⅲ』221
ハクウンボク S. obassia(玉鈴花・老開皮)
S. odoratissimus(芬芳安息香・郁香野茉莉) 華東・兩湖・兩廣・貴州産
セイヨウエゴノキ S. officinalis(南歐安息香) 地中海地方産
S. paralleloneurum スマトラ産、樹脂は安息香
コハクウンボク S. shiraianus 本州(栃木県以西)・四国・九州・朝鮮南部産
ウラジロエゴノキ S. suberifolius(紅皮樹・椆樹・栓葉安息香・粘高樹・
赤血仔・狐狸公) 長江以南・ベトナム産
コウシュンエゴノキ var. hayatanus(S.formosanus var.hayatanus;
台北安息香・恒春野茉莉) 臺灣産
シャムアンソクコウノキ S. tonkinensis(S.macrothyrsus, S.subniveus,
S.hypoglaucus;越南安息香・越南野茉莉・滇安息香・白花榔)
福建・江西・湖南・兩廣・四川・貴州・雲南・インドシナ産 樹脂は安息香
『中薬志Ⅲ』pp.556-559、『雲南の植物Ⅲ』221・『中国本草図録』Ⅹ/4790
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訓 |
「和名ゑごのきハ蓋シ蘞の木ノ意ニシテ其果皮ノ味喉ヲ刺戟シ蘞キ故斯ク云フナラント謂ヘリ」「芝居千代萩ニ在ルちしやのきハ卽チ是ナリ。又材ヲ傘ノろくろニ使用ス、故ニろくろぎノ名アリ」(『牧野日本植物図鑑』)。
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標準和名をチシャノキというものは、ムラサキ科のチシャノキ Ehretia ovalifolia。ただし「芝居先代萩ノちしゃのきハ此レニ非ラズシテゑごのきノ事ナリ」(『牧野日本植物図鑑』)。
チサの語源については、チサを見よ。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・琉球・臺灣・朝鮮・漢土(秦嶺黄河以南・南嶺以北)・インドシナ・フィリピン産 |
果皮にエゴサポニンを含み、魚類に強い毒性を示す(人には無害)。 |
誌 |
日本では、新鮮な果皮を洗濯に用い、絞り汁は川に流して魚をしびれさせて捕えた(いわゆる魚毒)という。
材は緻密で粘り気が強く、各種の器具・玩具を作るのに用いる。むかし番傘の轆轤(ろくろ,骨を集めて開閉する 中央の円筒形の部分)にも使われた。
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中国では、エコノキの花・葉・果及び虫癭の中の白い粉を、薬用にする。 |
中国では、同属植物のうち次のものの樹脂を安息香(アンソクコウ,ānxīxiāng)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅲ』pp.556-559 『全國中草藥匯編 上』pp.309-311 『(修訂) 中葯志』V/740-744
アンソクコウノキ S. benzoin(印度安息香)
シャムアンソクコウノキ S. tonkinensis(S.macrothyrsus, S.subniveus,
S.hypoglaucus;越南安息香・滇安息香・白花榔)
漢語安息香は、安息国から来た香料の意。安息(アンソク,ānxī)はパルティア Parthia、その初代の王アルサケスArsaces I の音写から。 |
日本では、生薬アンソッコウは アンソクコウノキ Styrax benzoin 又はその他同属植物から得た樹脂である(第十八改正日本薬局方)。
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『万葉集』に、
気(いき)の緒に念へる吾を山ぢさの花にかきみ(君)が移ろひぬらむ (7/1360,読人知らず)
山萵苣の白露しげみうらぶるる心も深く吾が恋止まず (11/2469,読人知らず)
・・・ちさの花 さけるさかりに はしきよし そのつま(妻)のこ(児)と
あさよひ(朝夕)に え(笑)みみえ(笑)まずも うちなげき かた(語)りけまくは・・・
(18/4106,大伴家持)
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また、「いちし」と記される植物は、諸説があるが、一にエゴノキ、またクサイチゴ、ギシギシなどとする。 |