辨 |
サクラ類の実であるサクランボは、いずれも食えるが、ヤマザクラなどの実は苦いので一般には食わない。大粒で美味な果実をつける種をミザクラと呼び、世界に数種類があり、食用に栽培する。
今日の日本に生食用として流通しているサクランボはセイヨウミザクラ。
欧米を中心に栽培されているサクランボとしては、ほかに
スミノミザクラ(酸味の実桜) Cerasus vulgaris(Prunus carasus;
歐洲酸櫻桃;E.Sour cherry)
Cerasus × gondouinii(Prunus × gondouinii;E.Duke cherry)
セイヨウミザクラとスミノミザクラの雑種
があり、世界の温帯で栽培されている。
一方、中国で古来食われてきたサクランボは、シナミザクラ(ミザクラ・カラミザクラ) Cerasus pseudocerasus(櫻桃)。 |
サクラ属 Cerasus(櫻 yīng 屬)については、サクラ属を見よ。 |
訓 |
サクランボ(桜坊)とは、サクラの果実。 |
属名 Cerasus・英名 cherry は、ラテン語の cerasia から。下の誌を見よ。 |
説 |
北アフリカ・ヨーロッパ・カフカス・西アジアに分布。ヨーロッパでは古くから栽培され、アメリカでは18世紀から栽培されている。
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誌 |
74B.C.、ローマ軍はポントスに侵攻し、黒海南沿岸の都市ケラスス Cerasus(現在のトルコの Giresun)に駐屯した。このとき、ローマ軍はこの地に特産のさくらんぼに魅了され、これを本国に持ち帰った。これは cerasia と呼ばれ、やがて広く帝国の各地に広まっていった。
英語の cherry(さくらんぼ), cerise(さくらんぼ色)などの語は、cerasus が ノルマン語のシェリーズ cherise を経由して 訛ったもの。
このように、欧米ではサクラといえばセイヨウミザクラの実、すなわちさくらんぼである。たとえば、チェーホフの戯曲『桜の園』も、さくらんぼの果樹園を指している。 |
日本には明治5年(1872)に導入され、北海道・東北で栽培されている。主産地は山形県のほか、福島・山梨など。
中国では、東北・華北で栽培。 |
中国の、および日本の江戸時代以前のサクランボについては、シナミザクラを見よ。 |
日本の明治以降の詩文に登場するサクランボは、おそらくほとんど全ての場合、このセイヨウミザクラであろう。
さくらんぼいまださ青に光るこそ悲しかりけれ花ちりしのち (北原白秋『桐の花』1913)
黄になりて桜桃の葉のおつる音午後の日ざしに聞こゆるものを
(1946,齋藤茂吉『白き山』)
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山形県の県木。 |