らん (蘭)

  辨  ラン科
  訓  漢名の蘭
     漢名の
     和名の蘭
  
   
 ラン科 Orchidaceae(蘭科)には、世界に約860属 約26,000種がある。
  (日本には約86属 約320種が、中国には約150属 約1000種がある。)
 ここでは、中間分類に関らず、主要な属をアルファベット順に一覧する。

   Acampe(脆花屬)
   エンレイショウキラン属 Acanthephippium(壇花蘭屬)
         
熱帯アジア・メラネシアに約15種 
   Aceratorchis(無距蘭屬)
   フイリピンナゴラン属 Aerides(指甲蘭屬)
   コバナオサラン属 Aeridostachya(氣穗蘭屬)
   ヌカボラン属 Agrostophyllum(禾葉蘭屬)
   ヒナラン属 Amitostigma(無柱蘭屬)
   ミスズラン属 Androcorys(兜蕊蘭屬)
 日本・臺灣・中国・ヒマラヤに約10種 
   アニアラン属 Ania(安蘭屬)
   キバナシュスラン Anoectochilus(開唇蘭屬)
 熱帯アジア・メラネシア・ハワイに約30種 
   Anota(無耳蘭屬)
   Anthogonium(筒瓣蘭屬)
   タネガシマムヨウラン属 Aphyllorchis(無葉蘭屬)
 熱帯アジア・オセアニアに約30種
   ヤクシマラン属 Apostasia(擬蘭屬)
 7種 
   タケラン属 Appendicula(牛齒蘭屬)
   ジンヤクラン属 Arachnis(蜘蛛蘭屬)
 熱帯アジア・オセアニアに13種 
   ナリヤラン属 Arundina(竹葉蘭屬)
 1-2種
   Ascocentrum(鳥舌蘭屬)
   Biermannia(胼胝蘭屬)
   シラン属 Bletilla(白及屬)
   ランダイヤマサギソウ属 Brachycorythis(苞葉蘭屬)
   マメヅタラン属 Bulbophyllum(石豆蘭屬) 
世界の熱帯に約1900種
   Bulleyia(蜂腰蘭屬)
   エビネ属 Calanthe(蝦脊蘭屬)
   ホテイラン属 Calypso(布袋蘭屬) 1属1 
   カタセトゥム属 Catasetum(龍鬚蘭屬) 
中央・南アメリカ熱帯と西インド諸島に葯50種
   カトレア属
(ヒノデラン属) Cattleya(卡特蘭屬)
   キンラン属 Cephalanthera(頭蕊蘭屬)
   トクサラン属 Cephalantheropsis(黃蘭屬)
東・東南アジア・ヒマラヤに4種
   Ceratostylis(牛角蘭屬)
   チケイラン属 Cestichis
   ヒメノヤガラ属 Chamaegastrodia(疊鞘蘭屬)
4種
   Changnienia(獨花蘭屬)
   カイロラン属 Cheirostylis(叉柱蘭屬)
         
 アジア・アフリカ・オセアニアの熱帯に約50種。和名は属名の前半から
   オオクモラン属 Chiloschista(異型蘭屬)
   クリソラン属 Chrysoglossum(金唇蘭屬)
   Cirrhopetalum(卷瓣蘭屬)
   オオムカデラン属 Cleisostoma(隔距蘭屬)
   アオチドリ属 Coeloglossum(凹舌蘭屬)
   キンヨウラク属 Coelogyne(貝母蘭屬)
   コラビラン属 Collabium(吻蘭屬) 和名は属名の前半から
   サンゴネラン属 Corallorhiza(珊瑚蘭屬)
   Corybas(鎧蘭屬)
   バイケイラン属 Corymborkis(管花蘭屬)
 世界の熱帯に7種
   サイハイラン属 Cremastra(杜鵑蘭屬)
   ヒメラン属 Crepidium(沼蘭屬)
 アジア・オセアニアの熱帯・亜熱帯に約280種 
   Cryptochilus(宿苞蘭屬)
   オオスズムシラン属 Cryptostylis(隱柱蘭屬)
 熱帯アジア・オセアニアに約25種
   シュンラン属 Cymbidium(蘭屬)
   Cyperorchis(莎草蘭屬)
   アツモリソウ属 Cypripedium(杓蘭屬)
   ツチアケビ属 Cyrtosia(肉果蘭屬)
   ハクサンチドリ属 Dactylorhiza(掌裂蘭屬)
   イチヨウラン属 Dactylostalix(指脊蘭屬) 
日本特産の属
   セッコク属 Dendrobium(石斛屬)
   タイワンムカゴソウ属 Dendrochilum(足柱蘭屬)
   コカゲラン属 Didymoplexiella(錨柱蘭)
   ヒメヤツシロラン属
(ユウレイラン属) Didymoplexis(雙唇蘭屬)
   ホザキヒメラン属 Dienia(無耳沼蘭屬)
   Diplomeria(合柱蘭屬)
   サガリラン属 Diploprora(蛇舌蘭屬)
   Dipylax(尖葯蘭屬)
   ジョウロウラン属 Disperis(雙袋蘭屬) 
約75種
   Doritis(五唇(血葉蘭屬))
   サワラン属 Eleorchis(旭蘭屬)
   コクラン属 Empusa
   Ephemerantha(金石斛屬)
   コイチヨウラン属 Ephippianthus(馬鞍蘭屬)
   Epidendrum(樹蘭屬)
   Epigeneium(厚唇蘭屬)
   カキラン属 Epipactis(火燒蘭屬)
 約20種。『雲南の植物』59
   トラキチラン属 Epipogium(虎舌蘭屬)
 アフリカ・ユーラシア・オーストラリアに3種
   オオオサラン属 Eria(毛蘭屬) 
熱帯アジア・ポリネシアに約500種
   ホソフデラン属 Erythrodes(鉗喙蘭屬)
   タカツルラン属 Erythrorchis(假吊蘭屬)
   イモラン属
(イモネヤガラ属) Eulophia(美冠蘭屬) 主として熱帯に約200種
   カモメラン属 Galearis(盔花蘭屬)
   オオタカツルラン属
(ツチアケビ属) Galeola(山珊瑚屬)
   カシノキラン属 Gastrochilus(盆距蘭屬))
   オニノヤガラ属 Gastrodia(天麻屬)
     オニノヤガラ G. elata(天麻・明天麻・赤箭・鬼督郵)
         
『中薬志Ⅰ』pp.88-89、『中草薬現代研究』Ⅰp.120。
         鬼督郵については、スズサイコの誌を見よ。

   トサカメオトラン属
(メオトラン属) Geodorum(地寶蘭屬)
         
 熱帯アジア・太平洋諸島に約5種
   シュスラン属 Goodyera(斑葉蘭屬)
   ホウオウラン属 Grammatophyllum
   テガタチドリ属
Gymnadenia(手參屬)
   ミズトンボ属 Habenaria(玉鳳花屬)
   ヤチラン属 Hammarbya(谷地蘭屬)
   ヒメクリソラン属 Hancockia(滇蘭屬)
   ニオイラン属 Haraella(香蘭屬)
   ハグルマラン属 Hayata
   ウチョウラン属
(ニイタカヒトツバラン属) Hemipilia(舌喙蘭屬)『雲南の植物』62
   ムカゴソウ属 Herminium(魚盤蘭屬)
『雲南の植物』63
   ヒメノヤガラ属 Hetaeria(翻唇蘭屬)
   マツノハラン属 Holcoglossum(槽舌蘭屬)
   フグリラン属 Hylophila(袋唇蘭)
   ハクウンラン属 Kuhlhasseltia(旗唇蘭屬)
   レリア属(アキアサヒラン属) Laelia(蕾麗蘭屬)
 中央・南アメリカの熱帯に約50種
   ムヨウラン属 Lecanorchis(盂蘭屬)
   クモキリソウ属 Liparis(羊耳藤屬)
   フタバラン属 Listera(對葉蘭屬)
 約20種
   ホンコンシュスラン属
(ボウラン属) Ludisia(血葉蘭屬)
   ボウラン属 Luisia(釵子股屬)
   リカステ属
(マイヅルラン属) Lycaste
   ナンバンカゴメラン属 Macodes(長唇蘭屬)
14種
   ホザキイチヨウラン属
(ヤチラン属) Malaxis(Microstylis;沼蘭屬)
   ニラバラン属 Microtis(葱葉蘭屬)
 オーストラリアを中心に12種
   ウスベニゴチョウ属 Miltonia(麗菫蘭屬)
   アリドオシラン属 Myrmechis(全唇蘭屬)
 6種
   ノビネチドリ属 Neolindleya
   サカネラン属 Neottia(鳥巣蘭屬)
 約10種
   ミヤマモジズリ属 Neottianthe(兜被蘭屬)
   ムカゴサイシン属 Nervilia(芋蘭屬)
   ヨウラクラン属 Oberonia(鳶尾蘭屬)
   イナバラン属 Odontochilus(齒唇蘭屬)
   スズメラン属 Oncidium(文心蘭屬)
熱帯アメリカに約400種
   コケイラン属 Oreorchis(山蘭屬)
『雲南の植物』64
   トキワラン属 Paphiopedilum(兜蘭屬)『雲南の植物』65
   ハナボウラン属 Papilionanthe(風蝶蘭屬)
   ガンゼキラン属 Paraphaius(擬鶴頂蘭屬)
   サギソウ属 Pecteilis(白蝶蘭屬)
   ムカデラン属 Pelatantheria(鑚柱蘭屬)
   ムカゴトンボ属 Peristylus(闊蕊蘭屬)
『雲南の植物』70
   カクチョウラン属(ガンゼキラン属) Phaius(鶴頂蘭屬)
   コチョウラン属 Phalaenopsis(蝶蘭屬)
   タマラン属 Pholidota(石仙桃蘭屬)
   フレラン属 Phreatia(馥蘭屬)
   リュウキュウセッコク属 Pinalia(蘋蘭屬)
   ツレサギソウ属 Platanthera(舌唇蘭屬)
   タイリントキソウ属 Pleione(獨蒜蘭屬)
   トキソウ属 Pogonia(朱蘭屬)
   トガリバクレソラン属 Pomatocalpa(鹿角蘭屬)
   ウチョウラン属 Ponerorchis(小紅門蘭屬)
   ヒメシラヒゲラン属 Pristiglottis(雙丸蘭屬)
 13種
   ジンヤクラン属 Renanthera(火焰蘭屬)
   ヤクシマアカシュスラン属 Rhomboda(菱蘭屬)
   オオホザキマツラン属 Rhynchostylis(鑚喙蘭屬)
   マツラン属 Saccolabium(嚢唇蘭屬)
   カヤラン属 Sarcochilus(狹唇蘭屬)
   タカサゴクレソラン属 Sarcophyton(肉蘭屬)
   ナゴラン属 Sedirea(萼脊蘭屬)
   チクヨウラン属 Sobralia(折葉蘭屬)
   コウトウシラン属 Spathoglottis(苞舌蘭屬)
          
熱帯アジアに約40種。『週刊朝日百科 植物の世界』9-179
   ネジバナ属 Spiranthes(綬草屬)
   ニュウメンラン属 Staurochilus(掌唇蘭屬)
   イリオモテムヨウラン属 Stereosandra(肉葯蘭屬) 
1属1種
   コオロギラン属 Stigmatodactylus(指柱蘭屬)
   レンギョウエビネ属 Styloglossum(落苞蘭屬)
   ハナビラン属 Sunipia(大苞蘭屬)
   クモラン属 Taeniophyllum(帶葉蘭屬)
   ヒメトケンラン属 Tainia(帶唇蘭屬)
   コウキチラン属 Thelasis(矮柱蘭屬)
   カヤラン属 Thrixspermum(白點蘭屬)
   ホザキカクラン属 Thunia(笋蘭屬)
   ヒトツボクロ属 Tipularia(筒距蘭屬)
   クラルクレソラン属
(ニュウメンラン属) Trichoglottis(毛舌蘭屬)
     
ニュウメンは、琉球の西表(いりおもて)を入面と書き、これを音読したもの
   ネッタイラン属 Tropidia(竹莖蘭屬) 
約35種
   コウトウラン属 Tuberolabium(紅頭蘭屬)
   ヒスイラン属 Vanda(萬帶蘭屬)
         
 中国・臺灣・東南アジア・インド・オーストラリア北部に約30-40種
   バニラ属 Vanilla(香果蘭屬)
   ミソボシラン属 Vrydagzynea(二尾蘭屬)
   ショウキラン属 Yoania(寛距蘭屬)
   キヌラン属 Zeuxine(綫柱蘭屬)
 76種 
   ムラサキウズララン属 Zygopetalum(軛瓣蘭屬)  
 新しいAPGにおける被子植物の分類ついては、被子植物を見よ。 
 漢語ではの字は 香りの高い草を意味する〔蘭=lan=香り高い草〕が、具体的には、時代により指すものが異なる。すなわち、

  1. 唐以前においては、蘭は キク科ヒヨドリバナ属 Eupatorium(澤蘭屬)の草本、ことにはフジバカマを指す〔蘭=lan=フジバカマ〕。

  2. 宋以後においては、蘭は ラン科 Orchidaceae(蘭科)の植物、今日のいわゆるランを指す〔蘭=lan=ラン〕。

 明末に李時珍は、Eupatorium を蘭草、Orchidaceae を蘭花と呼んで区別し、以て今日に至る。
 以上の蘭は草本であるが、漢人は香りの高い木も 木蘭(ボクラン,mulan,木本の蘭)と認識した〔蘭=lan=香り高い木〕。
 具体的には、今日のハクモクレンであるという〔蘭=lan=ハクモクレン〕。
 李時珍『本草綱目』(ca.1596)蘭草の釈名に、「陸機の詩の疏に言う、<鄭の俗、三月、男女 蕑を水際に秉(と)り、以て自ら祓除す>と。蓋し蘭は以て之を闌(さえぎ)り、蕑は以て之を閑(ふさ)ぐ。其の義、一なり」と。ただし、この蘭・蕑はフジバカマである。 
 蘭蕙同芳と称えられる蕙(ケイ,hui)の字義も、時代により異なる。

 1.古くは、カミメボウキ Ocinum tenuiflorum(O.sanctum;薰草・零陵香)を謂う。
 李時珍『本草綱目』(ca.1596)薰草の釈名に、「古くは、香草を焼き、以て神を降す。故に薰と曰い、蕙と曰う。薰は熏(ふす)ぶるなり。蕙は和(やわら)ぐなり。『漢書』に云う、<薰、香を以て自ら焼く>と。是なり。或は云う、<古人の祓除は、此の草を以て之を薰(ふす)ぶ。故に之を薰と謂う>と。亦た通ず」と。
 2.宋以降は、ラン科 Orchidaceae(蘭科)の植物のうち、「一茎数花」のものを蕙と謂う。
 
 日本における蘭の字義は、次のような変遷をたどった。

  1. 最も古くは、あららぎの漢字に蘭をあてた。あららぎは「まばらに生えるネギ」の意で、ノビルを指す〔蘭=あららぎ=ノビル〕。 (ノビルの誌を見よ。)
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、蘭■{艸冠に鬲}は「和名阿良々木」と。
  2. 平安時代には、蘭(らん・らに・らむ)はフジバカマを指すことが、認識された〔蘭=らん・らに=フジバカマ〕。
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、蘭草は「和名布知波加末」、沢蘭は「佐波阿良々岐、一名阿加末久佐」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)に、蘭は「和名本草云布知波賀万、新撰万葉集別用藤袴二字」、沢蘭は「和名佐波阿良々木、一云阿加末久佐」と。
 なお、この沢蘭の訓に見るように、1と2が混線して〔蘭=あららぎ=フジバカマ〕として用いられたことがある。
  3. 鎌倉・室町時代になると、中国からホウサイラン・ソシンランなどが入って、日本・中国に産するランを栽培・鑑賞するようになり、その風は江戸時代の享保(1716-1736)・天明(1781-1789)のころ極まった。この時代、蘭はもっぱらランを指した〔蘭=らん=ラン〕。
  4. 明治以降、イギリス・フランスから洋ランが入ったが、栽培が難しく一般化しなかった。第二次世界大戦後ようやく普及し、1970年ころから商業ベースに乗って流行し、今日に至る。現在では、蘭(ラン)はもっぱら洋ランを指すことが多くなり〔蘭=らん=洋ラン〕、旧来の日本・中国のランは東洋ランと呼んで区別する。
 平安時代以来、次のような成句が行われた。
   蘭橈桂檝
(ランジョウ ケイシュウ, 蘭の棹と 桂の舵)、舷(ふなばた)を東海の東に鼓(たた)
     
(大江朝綱,949作)
   蘭橈桂檝、舷を南海の月に敲
(たた)
     
(『太平記』12,14c.後半)
 中国の木蘭・木蘭舟のイメージを嗣ぎ、〔蘭=らん=香り高い木〕の意で 美称として用いるものであり、特定の樹種を指すものではあるまい。
 しかし、これが後に混線し、今日の各地の方言に残る〔(蘭)=あららぎ=イチイ〕を導いたものであろうか。
 
 
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 夏之部」に、蘭の品種を挙げる。
 
   夜の蘭香
(か)にかくれてや花白し (蕪村,1716-1783)
 

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