かんぞう(萱草)、きすげ (黄菅)、わすれぐさ(忘草) 

 カンゾウ・キスゲなどの植物は、かつてはユリ科 Liliaceae(百合科)に属せられていたが、今日ではススキノキ科に属している。
 被子植物の分類については、被子植物を見よ。
 ススキノキ科 Xanthorrhoeaceae(黃脂木 huángzhīmù 科)〔ワスレグサ科 Asphodelaceae(阿福花科)〕は、

   ススキノキ亜科
 オーストラリアに1属28種 
   ワスレグサ亜科
 主としてオーストラリアを中心とした南半球に19属113種 
   ツルボラン亜科
 旧世界・アフリカに13属600種 

からなり、以下のような属が含まれる。

  アロエ属 Aloe(蘆薈屬)
  キバナツルボ属 Asphodeline(日光蘭屬)
  ツルボラン属 Asphodelus(阿福花 afuhua 屬)
  キキョウラン属 Dianella(山菅蘭屬)
  キツネオラン属 Eremurus(獨尾草屬)
  ワスレグサ属 Hemerocallis(萱草屬)
  シャグマユリ属 Kniphofia(火把蓮屬)
  マオラン属 Phormium(麻蘭屬)
  ススキノキ属 Xanthorrhoea(黃脂木屬)
  
 ワスレグサ属 Hemerocallis(萱草 xuāncǎo 屬)には、東アジアの温帯に十数種がある。
 (ワスレグサ属の分類には、幾つかの意見・立場があるようだが、素人には近寄りがたい。ここでは、日本産のものについて『改訂新版 日本の野生植物(2915)』の分類に従い、中国のものを補った。)

  H. citrina
    ウコンカンゾウ var. citrina(黃花菜)
    ユウスゲ
(キスゲ) var. vespertina(H.vespertina;麝香萱草)
  H. dumortieri
    ヒメカンゾウ var. dumortieri(小萱草)
    ゼンテイカ
(ニッコウキスゲ・エゾゼンテイカ) var. esculenta
         (H. middendorfii var.esculenta;北萱草 běixuāncǎo)
    トビシマカンゾウ var. exaltata(H. exaltata)
  ムサシノキスゲ
(ムサシノワスレグサ) H. exilis
  H. forrestii(西南萱草)
  H. fulva
    ホンカンゾウ(シナカンゾウ) var. fulva(萱草 xuāncǎo)
    ノカンゾウ var. disticha(H.longituba;長管萱草)
    ハマカンゾウ var. littorea(H.littorea)
    ヤブカンゾウ
(オニカンゾウ) var. kwanzo(重瓣萱草・千葉萱草)
  マンシュウキスゲ H. lilioasphodelus(H.flava;北黃花菜)
    エゾキスゲ var. yezoensis(H.yezoensis)
  トウカンゾウ
(ワスレグサ・ナンバンカンゾウ) Hemerocallis major
         (H. aurantiaca auct. non Baker)
  H. middendorfii(大苞萱草)
  ホソバキスゲ H. minor(小黃花菜)
  H. multiflora(多花萱草)
  H. nana(矮萱草)
  H. plicata(折葉萱草) 
 
 漢名の萱草(ケンソウ,xuancao)は、古くは諼草・蘐草(ケンソウ,xuancao)と書いた。
 諼・蘐とは、わすれる意。萱は、諼・蘐と同音の 置き換え字。人の憂いを忘れさせる草(忘憂草)の意。
 和名のカンゾウは漢名の音の転訛、ワスレグサは漢名の訓。
 ただし、漢土とは異なり、人を忘れる・恋を忘れる意にかけてイメージされることが多い。
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)萱草に、「漢語抄云、和須礼久佐、俗云環藻二音」と。
 属名は、ギリシア語の「一日 hemera」+「美しい kallos」、花が一日で萎れることから。
 英名の day lily も同意。
 日本でも栽培しているホンカンゾウヤブカンゾウはともに中国原産、ヤブカンゾウは史前帰化植物、普通に野生している。
 本来 日本の関東・関西あたりに自生していたものは、ノカンゾウユウスゲなど。
 根にアルカロイドを含み、有毒。
 春の若葉は、野菜として食う。
 根は、薬用にする。ただし、いくつかの種では毒性が強く、適量を過ごすと失明・死亡に至ることがあるので、医師の指導のもとで慎重に用いよ、とある(『中薬志Ⅰ』pp.490-494・『全国中草薬匯編』)ホンカンゾウを見よ。
 中国におけるカンゾウについては、ホンカンゾウを見よ。
 日本では、忘れ草は『万葉集』に、

   萱草(わすれぐさ)吾が紐に付く香具山の故
(ふ)りにし里を忘れむが為 (3/334,大伴旅人)
   萱草吾が紐に着く時と無く念ひわたれば生けりともなし
(12/3060,読人知らず)
   萱草吾が下紐に著けたれど醜
(しこ)のしこ草ことにしありけり (4/727,大伴家持)
   萱草垣もしみみに殖ゑたれど鬼
(しこ)のしこ草猶恋ひにけり (12/3062,読人知らず)
 
 『古今集』には、

   忘草 たねとらましを あふことの いとかくかたき 物としりせば
(よみ人しらず)
   こふれども あふよのなきは 忘草 ゆめぢにさへや おひしげるらん (同)
   忘草 かれもやすると つれもなき 人の心に 霜はをかなむ
(源宗于)
   忘草 なにをかたねと おもひしは つれなき人の 心なりけり
(素性法師)
   住吉と あまはつぐさも ながゐすな 人忘草 おふといふなり
     
(壬生忠岑「あひしりける人の すみよしにまうでけるに よみてつかはしける」)

 『後撰集』には、

   思とは いふ物からに ともすれば わするゝ草の 花にやはあらぬ
     
(よみ人しらず「女のもとより忘草にふみをつけておこせて侍ければ」)
   わがためは 見るかひもなし 忘草 わする許の こひにしあらねば
     
(紀長谷雄「いひかはしける女の、いまは思わすれねといひ侍ければ」) 
 これらのわすれぐさは、渡来種のホンカンゾウ又はヤブカンゾウであろうか、日本原産のユウスゲを萱草に見立てたものであろうか。
 『大和物語』162に「同じ草を忍ぶ草、忘れ草といへば、云々」とあり、この頃からカンゾウの別名として「しのぶ草」が加わった。
 シノブの誌を見よ。
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 夏之部」に、「萱草(わすれくさ・くわんさう) 初中。花形百合のごとく、朝咲たる花、夕ニしぼみ、其次の花段々に咲。葉ハほそ長ク菖蒲のかたち。萱(わすれ)草を水ニ入て聖霊(しやうりやう)ニ手向(たむくる)、靈(れい)うれいをわするゝゆへニ、忘憂(もういう)といふ、此草の事にや、不詳。・・・萱草(わすれぐさ)は何種もありて紛ハし。○「おひて身の うきをも今ハ わすれ草」とよめるハ、さくらのよし。又うのはなのおちたるを見て、わすれ草ならバ、なごりを思ひてやちりつらんと。○「もみちては 花咲色を わすれ草」是ハしをんとこそ聞といひし人も有。又「きしにおふてう恋わすれ草」○「住吉の 忘か草の たねもかな」是等ハ住吉の岸ニ生るよし。又忍草といふ草ニ似て、石上枯(かれき)ニ生る草をわすれ草共いふ。○「忘草 生るのべとハ 見るらめど こいしのぶなる 後もたのまん」忍草といふハ、わすれ草よりまた異有、つりしのぶといふ」と。

     三首
   萱草花
(くわんざう)の夕日の川に出でしとき別れは其所に待ちてありけり
   夕日の朱
(しゅ)を吸ひ盛るくわんざうの花に男はあはれなりけり
   今別れんとする心の静けさ、くわんざうの夕日の朱
(あけ)は死にて動かず
      
(島木赤彦『馬鈴薯の花』)
 
 土屋文明(1890-1990)が、第二次世界大戦後の疎開先(群馬県吾妻郡原町川戸)で、三月二十日に「甘草(かんぞう)のつむべき畦を見に出でて」「吾が手の指の見ゆるかぎり甘草を切」り、「甘草を煮てうましともうまし」と詠った(『山下水』1946)甘草は、カンゾウ(萱草。ことにはヤブカンゾウ)の誤りであろう。
 (右は2007/08/30 川戸寸景)


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