辨 |
ダイダイ Citrus × aurantium(酸橙 suānchéng) は、マンダリン・オレンジ C.reticulata とザボン C.maxima の雑種。
多くの品種があり、アジア起源のものに
ナンショウダイダイ 'Taiwanica'(C.taiwanica)
スダチ Sour Orange Group(C.sudachi)
クネンボ Tangor Group(C.×nobilis)
カブス f. kabusu
var. amara(C.×amara;代代花)『中薬志Ⅱ』pp.268-274、『中国本草図録』Ⅱ/0648
アマダイダイ(キンクネンボ) subf. sinensis(C.×sinensis;
橙・甜橙 tiánchéng・雪柑・廣橘・廣柑・印子柑・黃果;E.Sweet orange)
アッサム原産。『中薬志Ⅱ』pp.222-226、『中国本草図録』Ⅶ/3192
西洋から伝来したものに
グレープフルーツ Grapefruit Group(C.×paradisi)
ネーブルオレンジ(ワシントンネーブル) var. brasiliensis(C.sinensis var.brasiliensis;
臍橙 qíchéng;E.Navel orange)
19c.初ブラジルで枝変わりとして発見、1870米国ワシントンに導入、
日本には1889導入。ネーブル navel は英語で「へそ」
などがある。 |
ミカン属 Citrus(柑橘 gānjú 屬)については、ミカン属を見よ。 |
訓 |
和名ダイダイは、その果実が冬に黄色く色づくが、翌夏にいったん緑化し、そののち再び黄色く色づくので、二代にわたる果実が樹上になることから。
カブスは、果皮を蚊遣りに用いたことから。 |
日本では、深江輔仁『本草和名』(ca.918)橙に「和名阿倍多知波奈」と。源順『倭名類聚抄』(ca.934)橙に「和名安倍太知波奈」と。 |
説 |
インドのアッサム地方の原産という。果実は酸味・苦みが強く、生食には不適。
ヨーロッパではサワーオレンジと呼び、マーマレードの材料として栽培、スペインのセビリャ地方の名産。
中国では、秦嶺以南で広く栽培、多くの自然雑種・栽培品種が生れた。
日本には、中国で品種分化したものが渡来。スペインと並ぶ生産国。 |
誌 |
中国では、
ダイダイ C. aurantium(酸橙・皮頭橙・鈎頭橙)
C. grandis var. shanyuan(C.wilsonii;香圓・西南香圓) C.grandis はザボン
カラタチ P. trifoliata(枸橘・枳・臭橘)
などの幼い果実を枳実(キジツ,zhĭshí)と呼び、成熟直前の緑色の果実を枳殻(キコク,zhĭqiào)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.259-274
なお、日本薬局方の枳実は、ダイダイ C. aurantium の未熟果実(丸ごと又は半割)のみを用い、カラタチは用いない。 |
日本では、その実を縁起物として正月に飾る。
果実は食酢とし、果皮は橙皮と呼んで 薬用・浴湯料にする。むかし、橙皮を燻して蚊遣りに用いた。 |
かつて垂仁天皇(4c.)が田道間守(たじまもり)を常世(とこよ)の国につかわして求めさせた「非時香果(ときじくのかぐのこのみ)」の正体について、古来ダイダイ説、キシュウミカン説、タチバナ説があるが、定まらない。タチバナの誌を見よ。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻三「柑(かう)るひ」に、「だいだい 祝儀ニ用ル代々なり。実ハ三四五年も不落」と。 |
欧米では、花から香油を採り、ネロリ油 neroli oil(橙花油)と呼ぶ。
果実をマーマレード・糖菓などに加工して食う。 |