辨 |
ヒメハギ属 Polygala(遠志 yuănzhì 屬)については、ヒメハギ属を見よ。 |
訓 |
漢名は、苗を小草といい、根を遠志という(『博物誌』)と。
根を服すれば能く智を益し、志を強くするので、遠志という(『本草綱目』)と。 |
葽の字は、葽(ヨウ,yăo)と読めば遠志、葽(ヨウ,yāo)と読めば狗尾草(エノコログサ)(『漢語大字典』)。 |
小野蘭山『本草綱目啓蒙』8(1806)遠志に、「ヒメハギ コグサ シバハギ スゞメハギ江戸花家 ノチヤ筑前」と。
岩崎灌園『本草圖譜』(1828)に、「遠志(ォンジ) すずめはぎ江戸」と。 |
説 |
朝鮮・遼寧・吉林・黑龍江・華北・陝甘・山東・兩湖・四川・モンゴリア・極東ロシア・シベリアに分布。 |
誌 |
中国では、イトヒルハギ及びシベリアオンジ P. sibirica(卵葉遠志)の根或は根皮を、遠志(エンシ,yuănzhì,おんじ)と呼び薬用にする。『中薬志Ⅰ』pp.234-237 『全國中草藥匯編』上 p.418
日本では、生薬オンジ(遠志)は イトヒメハギの根又は根皮である(第十八改正日本薬局方)。 |
『詩経』国風・豳風(ひんぷう)「七月」に、「四月は秀(しげ)れる葽(えう)」とある葽は、遠志。 |
『世説新語』排調篇に、次の話が載る。謝安(320-385)が桓温(312-373)の司馬となっていた時のこと、ある人が桓温に薬草を贈ったが、その中に遠志があった。そこで「公(桓温)、取りて以て謝(安)に問へらく、〈此の薬は又た小草と名づく。何ぞ一物にして二称有るや〉と。謝、未だ即答せず。時に郝隆、坐に在り。声に応じて答えて曰く、〈此れ甚だ解し易し。処(お)れば則ち遠志と為し、出づれば則ち小草と為す〉と。謝、甚だ愧色有り。桓公、謝を目して笑って曰く、〈郝参軍の此の過は乃ち悪しからず。亦た極めて会する有り〉と」と(『太平御覧』989所引をも参照)。
文中、処は、イトヒメハギの根が地中にあること、また謝安が東山に隠棲していること、出は、イトヒメハギの苗が地上にあること、また謝安が出仕して世に出ること。
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これより、遠き志を持つ者の自謙の称として、小草という。
「小草 浪して山を出で、大隠 乃ち市に居す」(陳与義「同叔易于観我斎分韻得自字」)。
「小草 遠志を懐くを妨げず、芳蘭 誰が為にか幽妍を発す」(元好問「春日半山亭游眺」)。 |