辨 |
サフラン属 Crocus(蕃紅花 fānhónghuā 屬)には、地中海地方・北アフリカ・中東に約100種がある。
C. alatavicus(白蕃紅花) アルタイ山脈産
C. ancyrensis 早ざき
C. biflorus 春ざき
C. chrysanthus(金黃蕃紅花;E.Golden crocus) 春ざき
C. kotschyanus 秋ざき
C. ochroleucus 秋ざき
C. pulchellus 秋ざき
サフラン C. sativus(蕃紅花;E.saffron) 秋ざき
C. sieberi 早ざき
秋ざきクロッカス C. speciosus(美麗蕃紅花) 秋ざき
ハナサフラン C. vernus(春蕃紅花・蕃紫花) 春ざき
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アヤメ科 Iridaceae(鳶尾 yuānwěi 科)については、アヤメ科を見よ。 |
訓 |
英名は、アラビア語「黄色 zafaran」から。
仏語では safran、独語では Safran。 |
和名は、オランダ語 saffraan の音写。
乾燥した花柱を薬品などとして用い、これをサフランと呼ぶのが本来の用法。 |
漢語別名の洎夫藍・撒法郎も、西方言語の音写。
なお、洎夫藍の洎(キ,jì)の字は 咱(サ,zá・zán)の誤りだが、すでに李時珍『本草綱目』が誤用しており、そのまま通用している。 |
小野蘭山『本草綱目啓蒙』11に、「番紅花 チヤフラン羅甸 サフラーン同上 フロウリスエンダーリス紅毛、フロウリスハ花ナリ コロウクスヲリエンダーリ同上、コロウクスハ花ナリ」と。 |
属名 crocus は、一説に、ギリシア神話において ニンフのスミラクスに恋焦れて死んだ美少年クロコス Krokos に由来するといい、一説にギリシア語の糸
kroke により、サフランの雄蘂の柱頭が垂れるようすから、という。 |
説 |
南ヨーロッパ乃至小アジア原産。アテネ周辺に自生する C. cartwrightianus(2倍体)から選抜された3倍体。 |
漢土には、元(1271-1368)時代に食品として入った(李時珍『本草綱目』)。 |
日本では、平賀源内『物類品隲(ひんしつ)』(1763)に初見。実物は文久年間(1861-1864)に渡来、薬用に栽培した。 |
誌 |
薬品としてのサフラン Saffron(C:蕃紅花,バンコウカ,fānhónghuā)は、雌蘂の柱頭を乾燥したものである。強い防腐力を持ち、また黄色色素や芳香を含むので、食品・化粧品・薬品などの染料・香辛料・調味料としても用いる。『中薬志Ⅲ』pp.378-380 『(修訂) 中葯志』V/317-320
日本では、生薬サフランは サフランの柱頭である(第十八改正日本薬局方)。 |
サフランは、1オンス(28.35g)のサフラン粉を集めるのに、四千以上の花を必要とし、莫大な労力を要したため、古代ギリシア・ローマでは 金と同じ価格で取引されたという。地中海地方ではミノア人が栽培し、クレタ文明はサフラン貿易で栄えた。
イギリスには14世紀に巡礼が持ち帰り、以後19世紀まで 南部地方で栽培され続けた。
近世のイギリスでは、茶にサフランの粉を入れるサフラン茶が流行した。今日では、ブイヤベース・パエリアなど、地中海料理の必需品。また観賞用に栽培する。 |
つつましき朝の食事に香をおくる小雨に濡れし洎芙藍の花
四十路びと面さみしらに歩みよる二月の朝の洎芙藍の花
(北原白秋『桐の花』1913。サフランは秋ざきだから、下の歌の洎芙藍はクロッカスであろう。)
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