辨 |
ロウバイ科 Calycanthaceae(蠟梅 làméi 科)には、2-4属 5-11種がある。
アメリカロウバイ属 Calycanthus(夏蠟梅屬) 2-6種
incl. Sinocalycanthus
ロウバイ属 Chimonanthus(蠟梅屬)
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ロウバイ属 Chimonanthus(蠟梅 làméi 屬)には、中国に3種がある。
C. nitens (山臘梅・亮葉臘梅・毛山茶・巖馬桑・香風茶・雪裡花・鷄卵果)
華東・兩湖・廣西・雲貴に産 花は黄色、秋冬に開花 『全国中草葯匯編』下/69-70
『雲南の植物Ⅱ』123・『中国本草図録』Ⅲ/1137 『(修訂) 中葯志』v/19-23
ロウバイ C. praecox (臘梅)
ソシンロウバイ(シロバナロウバイ) f. concolor(f.luteus;素心臘梅 sùxīn làméi)
素心とは花の中心が白いこと 揚州黄・吊金鐘などの品種がある
カカバイ f. intermedius(狗牙臘梅・狗蠅梅)
香りが薄いが、繁殖が容易なので、台木に用いる
トウロウバイ(シンノロウバイ・オオロウバイ) var. grandiflora(磬口臘梅)
虎蹄・喬種などの品種がある
C. salicifolius (柳葉臘梅) 江西に産、浙江で栽培。秋に開花。
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訓 |
漢名は、花瓣が蠟質なので蠟梅という。一説に、臘月(陰暦12月)にさくので臘梅という、と。 |
黄庭堅(1045-1105)によれば、その花が「女功の蝋を撚って成す所に類す(女仕事に作ったロウ細工のようだ)。京洛の人、因て蠟梅と謂う」と(『山谷詩集注』5)。
范成大(1126-1193)によれば、「色は酷だ蜜脾に似たり。故に蠟梅と名づく」と(『梅譜』)。 |
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)32に、「蠟梅 ナンキンウメ カラウメ トウウメ ランウメ 今通名」と。 |
説 |
漢土の河南・山東・華東・兩湖・陝西・四川・貴州・雲南に分布、主要な産地は湖北・陝西。
ただし、今日では野生は比較的少なく、広く各地で栽培する。 |
花は、新暦の1-3月、葉の開く前にさく。花被片は多数:内層片は小型で暗紫色、中層片は大型で黄色、外層片は細鱗片。芳香がある。 |
日本には江戸時代初期に入った。その時期は、『本草綱目啓蒙』によれば後水尾天皇(1596-1680;在位1611-1629)の時代といい、『地錦抄附録』によれば正保(1644-1647)年間、また宝永(1704-1711)年間ともいう。
またトウロウバイは享保(1716-1735)渡来、ソシンロウバイは江戸時代には渡来していたとも、明治中期の渡来ともいう。 |
誌 |
中国では、花の蕾・根・根皮を薬用にし、花から芳香油を採る。 |
臘梅の観賞は、北宋時代に遡る。
元祐元年(1086)冬、都の開封において、黄庭堅(1045-1105)は 初めてこれを詩に詠い、「戯れに蠟梅を詠ずる二首」を作った。
金蓓鎖春寒 悩人香未展 金蓓 春寒を鎖し、人を悩ます香は未だ展かず。
雖無桃李顔 風味極不浅 桃李の顔 無しと雖も、風味 極めて浅からず。
体薫山麝臍 色染薔薇露 体は山麝の臍に薫り、色は薔薇の露に染む。
披払不満襟 時有暗香度 披払して襟に満たず、時に暗香の度る有り。
これより、都ではロウバイを盛んに観賞するようになった(『山谷詩集注』5)。
その花の香の強さは、「一花香十里」(陳與義「同家弟賦臘梅詩四絶句」の一)と評せられた。 |
李時珍『本草綱目』(ca.1596)は、3の品種があるという。すなわち、「子(み・たね)を以て種(う)え、出でて経接(つぎき)せざるものは、臘月 小花を開き、香は淡し。狗蠅梅(クヨウバイ,gŏuyíngméi)と名づく。経接して花は疎、開く時 口を含む(花びらが半開き)ものは、磬口梅(ケイコウバイ,qìngkŏuméi)と名づく。花 密にして香濃く、色 深黄なること紫檀の如きものは、檀香梅(ダンコウバイ,tánxiāngméi)と名づく。最佳なり」と。
狗蠅は蔑称(臘梅の中では劣ることから)、避けて狗纓(クエイ,gŏuyīng)・九英(キュウエイ,jiŭyīng)ともいう。
磬口の磬とは、古代の打楽器。音程を整えた「へ」字形の玉(ギョク,yù)を多数吊り下げ、これをチャイムのように叩いて奏でる。磬口梅の名は、その花びらが全開しない様子を、磬の形に擬えて。
檀香(ダンコウ,tánxiāng)はビャクダン、南方に産し 香木の代表。檀香梅の名は、ビャクダンの心材が 色は淡黄色で芳香があることを、この品種の特徴に擬えたもの。
(なお、和名をダンコウバイというものは、クスノキ科クロモジ属の別植物。) |